Duck and Cover 伏せて覆って (連載第391回)

 8月29日の早朝、この国で初めてテレビ画面がJアラートのミサイル発射警報で埋め尽くされ列島に震撼が走った。もっとも朝寝坊のわが家でそれを知ったのはすでにミサイルが上空を通過した後だった。

 警報が発令された地域ではサイレンも鳴り響いたようだが、住民の多くはどう行動したらいいのか戸惑ったという。「頑丈な建物や地下に避難しろ」と言われても自分の家の近くにそんなものは無い、という声も多く聞かれた。国民保護ポータルサイトを見ると確かに屋外にいる場合には「物陰に身を隠すか地面に伏せて頭部を守る」と書いてあるが、Jアラート画面には表示されていなかった。

 朝鮮半島情勢の緊張を受けてこのところ各地で避難訓練が実施されていて、学校では子供たちにもそのように指導しているようだ。私自身もかつての冷戦下でソ連や中国の核ミサイルの脅威に曝されていたわけだが、同様の訓練を受けた記憶が無い。昔はのんびりしていたのだろう。

 避難訓練の光景をテレビで見ていたら、1950年代以降米国の学校で使われていたDuck and Cover(伏せて覆って)という啓蒙映画を思い出した。爆発物の危険を察知した亀が手足を引っ込めて地面に伏せるアニメーションで始まる9分余のこの白黒映画は、核爆発の閃光を見たらすぐに伏せて身を覆えと説くもので、改めてYouTubeで見たが結構よく出来ている。爆風の衝撃から少しでも身を守る術を子供の頃から教えること自体はけっして悪いことではない。戦争以外に地震(earthquake)や竜巻(tornado)、テロ攻撃(terrorist attack)などでも役に立つからだ。

 私を含めて多くの国民に違和感を与えているのは、政府が掲げる「国民保護」(civil protection)には第一撃に対する避難対応しか無いからだ。諸外国の民間防衛(civil defense)に鑑みるに、状況によっては毒ガス攻撃に備えてガムテープで窓を目張りするとかガスマスクを用意するとかの対策を取らなくていいか、防空壕を掘れる所は今のうちに造っておいてはどうかなどと思うのだが、それに関する助言も支援も無い。

 工作員によるテロに備えた原発や基地周辺の警備強化策、難民が殺到した場合の収容計画なども政府内では秘かに準備しているのだろうが、それならそうと、それも含めた対策もあることを周知して国民を少しでも安心させてほしい。

(『財界』2017年10月17日号掲載)

【補注】
Jアラート画面に表示される警告文はその後一部修正されました。詳しくは掲載誌発売後にブログに掲載した記事(「英夢見楽」連載誌『財界』 2017年10月17日号発売のお知らせ〔参考動画あり〕をご覧ください。YouTubeで見つけたDuck and Coverの映像もそちらでご覧になれます。


※掲載日:2017年10月17日
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