Glass ceilings ガラスの天井 (連載第388回)

 安倍内閣で失態を重ねた稲田防衛相がようやく辞任したかと思えば、奇しくも同日、党運営に行き詰まった蓮舫氏が民進党代表の座を突然降りた。

 女性政治家がトップへの道を断たれるたびに「ガラスの天井」(glass ceilings)という比喩表現を耳にするようになった。昨年の米国大統領選挙ではヒラリー・クリントン候補がよく演説で「ガラスの天井を打ち破る」(shatter glass ceilings)と言っていた。誰がいつごろ使い出した言葉かは定かでないが、手元の古い辞書には見当たらない。おそらく童話『シンデレラ』のガラスの靴(glass slippers)から連想した造語だろう。

 だが、むやみやたらにガラスの天井のせいにするのも考えものだ。その打破を訴えてきたクリントン候補も、女性有権者の支持は決して高いほうではなかった。

 稲田前防衛相の場合、女性の積極的登用を唱える安倍政権でいわば下駄を履かせてもらって起用されたものの、政治家としての基本的な資質の欠如が露見した挙句に辞任に至ったというのが実態であって、女性であることが失敗の直接的な原因ではない。

 蓮舫前代表についてはちょっと微妙なところだ。私の記憶では彼女も以前、ガラスの天井という言葉を自ら使ったことがある。彼女を党首に担ぎ上げておきながらよく支えなかった民進党の幹部連に女性党首への差別意識や反感は無かったと思いたいが、古参政治家の間にあって比較的若い彼女がリーダーシップを発揮しにくかったことは想像に難くない。

 自分が女性だからどうこうという言い方は、良い意味であれ悪い意味であれ、特にトップを目指す女性自身は使わないほうがいいような気がする。欧州の政界を見ると、ドイツのメルケル首相にせよ英国のメイ首相にせよ、女性であることを理由とした評価の高低は聞こえてこない。もっともこのへんは社会の先進性によるものかもしれない。

 小池東京都知事もまた然り。所属していた自民党では認められず、結局は袂を分かつ形で都知事の座を射止め、7月の都議選でもその自民党を大敗せしめた。女性としての魅力を活かしながらも、女性であるがゆえのハンデを微塵も感じさせないところに優れたリーダー像が見て取れる。

 ガラスの天井は社会や組織の中にある以上に、リーダーを目指す女性の心の中にあるのかもしれない。

(『財界』2017年9月5日号掲載)


※掲載日:2017年9月19日
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