Secret recording 秘密録音 (連載第387回)

 某女性国会議員が自分の男性秘書に暴言を吐いたことが週刊誌で報道されるとともに、その録音がネットで公開されてスキャンダルを巻き起こした。テレビの情報番組で何度も流されたその録音には、秘書の家族に対する脅迫(threat)めいた言葉や彼を殴打する音も含まれており、彼は結局、警察に被害届を出した。

 秘書が身を守ろうとしてその音声を秘かに録音した行動は正当化されよう。だが、録音された議員の怒声が面白おかしく編集され、テレビでひっきりなしに放送されたのはいかがなものかと思う。公人である議員がその不届きな所業により世間の指弾を浴びるのは止むを得ないとしても、ご家族の心労は察するに余りある。

 捜査機関やスパイなどの第三者による盗聴(eavesdropping)とは違って、当事者の一方による秘密録音(secret recording)自体は、少なくともこの国では違法ではない。ただしデジタル音声ファイルは素人でも比較的容易に編集できるので、録音が裁判の証拠(evidence)として認められるかどうかはまた別の話だ。ネットなどでむやみに公開すれば当然、プライバシーの侵害や名誉棄損の加害者になりかねない。

 携帯型録音機は、私も学生時代から使っていたカセットテープレコーダー(cassette tape recorder)に代わって、今日ではより小さく長時間録音が可能なICレコーダー(digital voice recorder)が広く普及している。携帯電話にも録音機能はあるが、バッテリーの持ちや長時間録音の必要を考えると、録音専用機を別に持つに越したことはない。ペン型など見た目にはそれと分かりにくいスパイ道具さながらの製品も安く手に入るようだ。

 小型録音機は一般には授業、講演や会議の記録、取材などの用途に使われるものであって、人との会話を隠し録りする動機は、私のような善良な市民にはほとんど無い。もっとも、今は半ば隠遁生活を決め込んでいる私も、かつては人から脅迫めいた要求を受けたり不正取引を求められたりしたことがあった。知己の中には、身に覚えのない横領を取引先にでっち上げられて逮捕された経験がある人もいる。その人は不起訴となったが、失われた社会的信用は計り知れず、相手や当局からの謝罪も補償も一切無い。

 一般市民を投獄しやすくする法案が簡単に通ってしまうこのご時世、政治絡みの仕事をしている向きは特に、小型録音機を常時携行して会話をすべて録音しておくくらいの用心深さがあってもいいかもしれない。

(『財界』2017年8月22日号掲載)


※掲載日:2017年8月29日
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