Courteous 礼節ある (連載第378回)

 去る2月中旬、新千歳空港発真駒内駅行きバスの終点になっている某ホテルでタクシーを待っていたら、「2017冬季アジア札幌大会(Sapporo Asian Winter Games)」の看板が目にとまった。私の前に並んでいた記者らしい男性に尋ねたところ、開会式を控えて参加選手が泊まっているという。

 それで思い出したが、その少し前に、そのチェーンホテルの客室に置いてある本の内容が某国政府の歴史認識にそぐわないものだったことが政治問題(political issue)になりかけた。結局、その国の選手が当のホテルへの宿泊を取り止めただけで、参加ボイコット(boycott)のような騒ぎも無く無事に終わったのは幸いだった。

 個人的には国際大会を間近に見る偶然の好機だったが、東京暮らしが長い私はカチカチに凍った札幌の雪道を迂闊に歩き回ろうものなら転びかねないので、暖房の効いた実家でひねもすテレビ観戦を決め込んだ。幸い、選手や運営スタッフの裏話を伝えるNHKのローカルニュースのおかげもあって、開催地の雰囲気をちょっとだけ味わうことができた。

 世界トップレベルの選手がメダルを競い合う姿はもちろん、アジア諸国から参加した様々な選手の姿をBS放送やネット中継で見られたのは良かった。クロスカントリー競技ではクラシカル用スキーを初めて履いて公式練習に臨んだ某国の選手が翌日には競技に出場したと聞いていささか驚いたが、最下位でも完走したと聞いてほっとした。南国から参加した若いフィギュアスケート選手たちが、転倒しては立ち上がって最後まで演技を続け、少し空席が目立つ会場の温かい拍手に笑顔で応えていたのも微笑ましかった。

 こういった屈託の無い若い選手や目を輝かせて観戦する地元の子供に良い思い出を残しその手本となるように、開催国、参加国双方の関係者は大会前に政治的な軋轢を起こしかねない言動を慎んでほしかった。歴史認識の違いは所詮平行線なのだから、その種の論議を平和の祭典の直前に蒸し返すこともあるまい。世間には誰彼構わず公然と批判(criticize anyone in public)したがる向きもあるが、多少気に入らないことがあってもそこは目をつむるなり、穏便に善処を申し入れるなり、大人のやり方はいくらでもあるはずだ。批判を受けた側も片意地を張ることなく、礼節ある(courteous)柔軟な対応が望まれる。

 国家間の関係も、試合後に健闘を称え合う若い選手同士のように清々しいものでありたい。

(『財界』2017年4月4日号掲載)


※掲載日:2017年4月18日
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