Let us negotiate 交渉に臨もう (連載第377回)

 安倍首相が米国のトランプ大統領を訪れている最中、北朝鮮がまたも弾道ミサイルを発射した。日本政府はこれを挑発的行動(provocative action)と非難したが、例によってあちらの指導者には馬耳東風だ。

 国連安保理決議を無視して核実験や弾道ミサイル発射を繰り返してきた北朝鮮は、より秘匿性の高いSLBM(submarine-launched ballistic missile, 潜水艦発射弾道ミサイル)やその固体燃料の開発を着実に進めてきたようだ。核実験ほどセンセーショナルではなくても、このような核兵器運搬手段(nuclear weapons delivery system)の開発も軍事的にはそれに劣らず深刻な事態だ。広大な大洋を遊弋する探知困難な潜水艦から発射される核搭載SLBMは敵の先制攻撃(first strike)を免れて大量報復(massive retaliation)を可能にする。残念ながら超大国(superpower)や国際社会は、北朝鮮に対する非難や制裁を繰り返しているうちに、この種の兵器開発を進める時間を彼らに与えてしまった。大量破壊兵器の開発以外に体制維持の道を見出そうとしない彼らは、今後も自らの意思でそれを放棄することは無さそうだ。

 もちろん、北朝鮮の現体制の存続を脅かすような切迫した事態でも起こらない限り、現実に核戦争が起こる可能性は極めて低い。彼らにしても、下手に戦争に打って出た日には米国の圧倒的な軍事力で滅亡に追い込まれるのは目に見えているから、簡単には手を出せない。冷戦時代の米ソ両大国は人類を何十回も絶滅させるほどの核兵器を持って対峙したが結局、核戦争は起きていない。だが将来、東アジアで偶発的な武力衝突が起こって全面戦争に発展しない保証は無い。世界各地で今も続く局地紛争や内戦を見ても分かるように、いったん戦火が開かれると、当事国の政府や国民も国際社会もそれを簡単には止められないことは歴史が証明している。

 その危険を回避するためにも、ここらで交渉の糸口を探れないものか。直接対話が無理ならまずは第三者を介した接触や非政治的な交流から始める手もある。かつて米ソ冷戦の時代には、米政権の意を受けた一民間人が両者のパイプ役として東西を奔走した。米国で新政権が発足した今こそ、これと密に連携しながらその方法を探る好機かもしれない。

 かのジョン・F・ケネディ大統領(JFK)は就任演説で言った。Let us never negotiate out of fear. But let us never fear to negotiate.(我々は恐れから交渉に臨むまい。だが交渉することを恐れまい。)

(『財界』2017年3月21日号掲載)


※掲載日:2017年3月21日
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