Buy American 米国製品を買え (連載第376回)

 何から何まで異例ずくめで就任前から話題を呼んだトランプ大統領はその就任演説(inaugural address)も風変わりだった。21世紀の今日、まさか米大統領の就任演説でbuy American and hire American(米国製品を買え、米国人を雇え)という保護貿易主義的なフレーズを耳にするとは思いもよらなかった。新大統領はAmerica first(米国最優先)というかねてからの主張をここでも唱え、選挙中に繰り返し使ったスローガン、We will make America great again(米国を再び偉大にする)で演説を締めくくった。崇高な理想を滔々と述べる歴代大統領の就任演説に比べると極めて異色だ。

 テレビのニュース番組を見ていたら、米国人タレントが彼の就任演説を酷評していた。だが、新大統領の政策の是非や人柄の好き嫌いを別にすれば、演説そのものはそれほど悪くなかったと私は思う。お世辞にも格調高い演説とは言えないまでも、新大統領の理念や方針が明確に示されており、ゆっくりと力強い口調は支持者の目に頼もしく映ったに違いない。

 市民運動家だったオバマ前大統領が核兵器廃絶などの理想を追求する「理」の人だとすれば、剛腕経営者として知られるトランプ大統領は国民の雇用や安全という実利を目指す「利」の人だ。そのコミュニケーションスタイルも対照的だ。オープンな雰囲気の記者会見で人当たりよく受け答えしていた前任者に対し、強面の新大統領は敵対的なマスメディアへの攻撃的な姿勢に終始している。

 両者のコミュニケーション手法に共通点があるとすれば、ツイッター(Twitter)や動画配信を選挙運動や政策方針の発表に活用してきたことだ。演説のハイライトを直後にツイッターに投稿する手法も同じだ。演説自体はテレビなどで見聞きしていても、支持者がリツイート(Retweet, 転載)や「いいね」(Like)ボタンをクリックして賛同を示すことで連帯感が高まる効果がある。

 トランプ氏のツイッターを読んで興味深いのは、テレビ報道などでも伝えられる強硬な発言の合間に、某局との単独インタビューが何時からあるから見てくれとか、誰某はいい奴だからあいつの店で買ってくれなどという愛想のいいツイートがあることだ。大統領としての公平公正な態度を疑問視する向きもあるが、察するに、彼は自分を慕ってくる人の面倒をよく見る親分肌な人なのだろう。こういうタイプの人を相手にするには、理屈で説き伏せようとするよりも、その手腕に敬意を払って懐に飛び込んだほうが良さそうだ。

(『財界』2017年3月7日号掲載)


※掲載日:2017年3月21日
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