Divided 分断された (連載第373回)

 2期8年間にわたったオバマ米大統領の任期(tenure)がまもなく終わる。米国史上初のアフリカ系アメリカ人(Afro-American=黒人)大統領がその卓越した雄弁(eloquence)で華々しく表舞台に立った当初は彼と同い年の私も感慨ひとしおだったが、8年経った今ではどこか空しさが残る。

 オバマ氏が大統領選挙に名乗りを上げたときの演説で民族の垣根を越えた国の団結を訴えたのとは裏腹に、米国では警察官による黒人市民の射殺事件や不法移民に対する不満を背景にますます分断が進んだ。海外では米軍が撤退したイラクで勢力を拡大した過激派組織(IS)の進出によってシリア内戦が混迷を深め、戦火を逃れた膨大な難民が欧州の政治情勢を大きく変えた。残念ながらこの8年間、世界は悪い方向に進んできた。

 一方、米国の景気はまずまずだというし、前政権から負の遺産を引き継いだ政権としてはむしろ上出来だった。もし米国の憲法で大統領の3選が禁止されていなかったら、オバマ政権があと4年続くうちに世界情勢も好転するかもしれない。オバマ氏のように魅力と才能に溢れた逸材が世界最高の権力を持つ合衆国大統領職(U.S. Presidency)にあってもなお問題が山積みになったまま任期を終えるのだから、これはもう大統領の資質云々というよりは、米国流民主主義の限界なのだろう。行政府の長たる大統領と野党が多数を占める連邦議会の対立が往々にして政治の停滞や混乱を招き、政権が交代すると前政権が進めてきた国策が水泡に帰しかねない。1年近くの長期にわたる米国独特の選挙戦は国民が指導者をじっくり選べる反面、政治資金が潤沢な候補者ほど有利だ。

 その選挙戦を勝ち抜いて大統領に選出されたトランプ氏は昨年末、米TIME誌の「今年の人」(Person of the Year)に選ばれて同誌の表紙を飾ったが、その写真の下にはPresident of the Divided States of America(アメリカ分断国大統領)という皮肉めいたキャプションがあったという。もちろん、米国社会の分断の責任がトランプ氏やその前任者であるオバマ大統領だけにあるわけではない。A house divided against itself cannot stand. (ばらばらになった家は立ち行かない)はその昔、リンカーン大統領が演説で引用したことで知られる聖書の言葉だが、建国当初から多民族国家であった米国にとって、分断の克服は半ば永遠の課題なのかもしれない。

(『財界』2017年1月24日号掲載)


※掲載日:2017年1月24日
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