Trump トランプ (連載第371回)

 〔2016年〕米国大統領選挙では、英国のEU離脱(Brexit)に続いてまたもや大方の予想を裏切り、不動産王のドナルド・トランプ氏(共和党)が、ヒラリー・クリントン氏(民主党)との間で繰り広げられた史上最低とも言われる中傷合戦を制して当選した。

 そのトランプ氏は、選挙期間中にリークされた自身の猥談(locker-room talk)が女性蔑視と非難された。かくも下品な人物は大統領に相応しくないとまで言われたが、結果から見ると、米国の有権者の多く、特に彼の支持者はほとんど意に介さなかったようだ。米国の一般社会ではむしろああいうどこか粗野なキャラクターが好かれるのかもしれない。

 トランプ氏を見ているとつい思い出すのがコミカルなタイムトラベル物SF映画三部作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(Back to the Future)に登場する敵役ビフ・タネンだ。その風貌はどこかトランプ氏を彷彿とさせ、彼がモデルだったとも言われている。シリーズ第2作で主人公マーティ・マクフライが(劇中で2015年に設定されていた)30年後の未来で買ったスポーツ年鑑を奪い取ったビフが賭けで富豪にのし上がり、カジノを経営して街を牛耳る設定は、現実の歴史の進行と妙に符合していて面白い。トランプ氏といえばかつて司会者(MC=master of ceremony)を務めていたテレビ番組で発したYou're fired!(お前はクビだ)という決め台詞が有名だが、それもこの映画に出てくる(ちなみに今年108年ぶりに米大リーグのワールドシリーズを制したシカゴ・カブスが優勝したと聞いて驚く場面もある)。

 トランプ氏当選の原動力となったといわれる白人有権者の投票行動を決定付けたのは、彼のそういう(地でもあろうが多分に意図的に演じていた)キャラクターではなくて、不法移民(illegal immigrants)や特権階級(the establishment)に対する反感だったようだ。その根深さをマスコミは過小評価していた。クリントン氏優勢を伝えるテレビ番組の中で、ジャーナリストの木村太郎氏だけがトランプ氏の当選を確信的に予想していたのは特筆に値する。

 トランプ氏がこれまでの放言をどれだけ実行に移すかわからないが、安保体制にせよTPPにせよ、この国もこれまでの枠組みに捉われない柔軟な発想で取り組む必要がある。英国のEU離脱と米国トランプ政権の誕生で歴史は間違いなく以前とは違う方向に進みつつあるのだから。

(『財界』2017年1月3日号掲載)


※掲載日:2016年12月20日
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