Doomsday 世界最後の日 (連載第367回)

 米ソ冷戦たけなわの1960年代に制作されたSF映画やドラマ(sci-fi movies and dramas)を見ていたらドゥームズデイマシン(doomsday machineまたは doomsday device )なる言葉が出てきた。日本語に訳すとさしずめ「世界破滅装置」「人類絶滅装置」といったところだ。例えば、米ソ核戦争の勃発をブラックユーモアたっぷりに描いた映画『博士の異常な愛情』(原題Dr. Strangelove, 1964年公開)には、核攻撃を受けると自動的に報復して全人類を滅亡させてしまう装置として登場した。1960年代後半のSFテレビドラマ『スタートレック』(Star Trek, 放送時の邦題『宇宙大作戦』)に登場した惑星全体を飲み込む巨大な怪物もこの言葉で表現されていた。

 改めて調べてみると、この言葉は米国の未来学者ハーマン・カーン(Herman Kahn, ハドソン研究所の創設者)が著書『熱核戦争論』(On Thermonuclear War, 1960年) で提唱したものらしい。Doomsday はもともとキリスト教で言う「最後の審判の日」のことだが、その頃から核戦争などによる「世界最後の日」の意味でも使われてきた。doomsday clockは「世界終末時計」のことで、核戦争の勃発による世界の終末を零時としてそれまでの残り時間を分単位で象徴的に示したものだ。

 doomsday machineはもちろん架空の兵器だが、かつて半減期が非常に長いコバルトを使った原子爆弾による放射性降下物(radioactive fallout)によって地上に人が住めなくなる可能性が指摘されたことがあり、それを指して使われたこともあるようだ。かくも有害無益な兵器が実用化されることはさすがに無かったが、全人類を絶滅させられるほど大量の核兵器(nuclear weapons)は、心ある人々の願いに反して今もこの地球上に存在し続けている。

 もっとも、冷戦時代に青少年期を過ごした私自身は、核戦争が実際に起こり得るという恐怖を肌で感じた記憶はほとんど無い。SF映画で何度もそのような場面を見たせいで逆に感性が鈍ってしまったのかもしれない。

 今日、大国間の全面核戦争(all-out nuclear war)が起こる可能性は極めて低いとしても、一部の独裁国家が核実験を繰り返しており、核拡散(nuclear proliferation)と核のテロ(nuclear terrorism)への懸念はむしろ高まっている。核による世界の破滅を回避し続けられるかどうか、人類の英知が今も試されている。

(『財界』2016年10月18日号掲載)


※掲載日:2016年10月18日
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