While walking 歩きながら (連載第364回)

 自分が幼かった頃、両親から言われたことのひとつに「歩きながら物を食べるな」というのがあった。たしか行儀が悪い(badly behaved)から、というのがその理由だったように思う。しかし後年、綿菓子を食べながら歩いていた子供が転倒して割り箸を喉に突き刺した事故があったと聞いて、歩きながら何かするのは、マナーの問題を通り越して身の安全に関わると改めて思い知った。

 ここ数年、歩きスマホ(texting while walking; textingは「メールを打つ」の意味)は屋外で普通に見られる光景のひとつになった。先月〔2016年7月〕、「ポケモンGO」なるスマホゲームが国内でもリリースされて、この問題に改めて注意が促されている。そのゲームアプリ(game app)が先行配信された海外では、獲物(モンスター)を追って徘徊していたプレーヤーの転落や交通事故、さらに他人の土地に侵入して銃撃された事件まで起きたことから、その使用に際しては十分注意するように内閣からも異例のリリースがあった。

 自動車や自転車運転中のスマホ使用(texting while driving/biking)は法律でも禁止されているが、歩きスマホに関する限り、この国の社会はまだ寛容だ。問題となっている例のゲームに対しても、「注意して使いましょう」「敷地内での使用はご遠慮ください」といったやんわりした表現が目立つ。私だって他人がゲームを楽しんでいるのに水を差したくないし、マナーについては人によって考え方が違うから、屋外でのプレーそのものをとやかく言うつもりもない(もっとも、公共の場所や私有地に勝手にゲームの獲物を発生させてプレーヤーを侵入させるゲームの設計思想は厳しく問われるべきだと思う)。

 公道上や駅構内でスマホに夢中になっている人の多くは、自分が事故に遭って初めてその危険に気付くのかもしれない。歩きスマホは、当人だけならまだしも、近くを通りかかった他人まで危険に巻き込むおそれがある。そもそも歩道や駅のホームは遊んでいい場所ではないのだから、公共空間でのプレーは公園などに限るべきだ。

 安全対策として、それに内蔵されている加速度センサー(a built-in accelerometer)を使って、運転中や歩行中はゲームの動作を停止させる機能を持たせてはどうか。その種の機能の搭載をゲームの製造元に義務付ければ、事故の危険を大きく減らせるに違いない。関係者に一考をお願いしたい。

(『財界』2016年9月6日号掲載)


※掲載日:2016年9月20日
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