Cause and effect 因果関係 (連載第358回)

 〔2016年〕4月中旬に熊本、大分両県で相次いで発生した大きな地震に多くの方々が被災した。心よりお見舞い申し上げるとともに、一日も早く普段の生活を取り戻されるようにお祈りしたい。

 5年前の東日本大震災の発生直後もそうだったが、このように大きな地震があると、それに関するテレビ番組の中には、今度はどこそこで起こるかもしれないという憶測を事実や仮説、想定に交えて伝える向きがある。あれには常々閉口している。

 実際、少なくとも彼らが言及していた地域では、今日まで大地震は起こっていない。一方、今回の熊本地震のように、予見も予知もされていなかった場所で何の前触れもなく発生する。こと地震に関する限り、専門家が放送で言うことはあまり当てにならない。

 最近翻訳した英文にpost hoc ergo propter hoc というラテン語の言葉が出てきた。手元の辞書には見当たらなかったので、例によってインターネットで検索したら、英語ではafter this, therefore because of this(この後に起こったからこれが原因だ)などと訳されている。日本語では「前後即因果の誤謬」というらしい。たまたま相前後して発生した2つの事象の間に因果関係があると思い込む論理的な誤り(logical fallacy)だ。非科学的な予言(prophecy)や迷信(superstition)の類もほとんどはこれに当たる。何かが起こると予め分かっていたのではなく、相前後して起こっていた2つの事象を後からこじつけているに過ぎない。

 極端な例を挙げると、かつての震災は時の首相や与党政治家の不信心や不行跡のせいだとする妄言をネットで見かけたことがある。たとえ時の政権の災害対応に不手際があって、または首相に信心が足りなかったとしても、そのことと天災発生との間に因果関係があるとは普通なら誰も考えない。だが、前後する二つの事象によっては、災害に遭って不安を抱える情報の受け手が安易に信じたり第三者に伝えたりすることはままある。

 熊本地震後の気象庁の記者会見では、今までの経験則から外れている今回の地震は先の見通しが立たないと率直に認めていたが、あれこそ科学的に適切な見解だ。大地震のすぐ後にたまたま他の地域で別の地震や火山の噴火が起こったとしても、それは単なる偶然かもしれない。科学者たるもの、証明できてもいない仮説を事実や根拠のある予測と混同させるような説明は厳に慎むべきだろう。

(『財界』2016年6月7日号掲載)


※掲載日:2016年6月21日
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