Acronym 頭字語 (連載第354回)

 何でも最近は猫ブームなのだそうだ。巷では猫と戯れられる「猫カフェ」なる喫茶店が繁盛し、とある書店では猫の写真集を中心に陳列したところ客足が大きく伸びたという。

 閑話休題、今回書こうとしたのは猫の話ではなく頭字語(略語、acronym)についてだ。猫の種類を表す略語にDSH catというのがある。例によってインターネットで検索してみると、英語ではよく使われているが、日本ではほとんど通じそうにない。手元の辞書にも出ていない。これはdomestic short-haired cat(短毛の家猫)を略したものだ。「ドメスティックショートヘアード」と言うとちょっと高級そうにも聞こえるが、何のことはない、わが家にもいる短毛雑種猫の総称だ。

 このように、英語ではよく見かけるのに日本語に入っていない頭字語は多々ある。一方、日本語で使われているアルファベットの略語には英語圏では見かけないものも意外に多い。たとえばtakeover bid(株式公開買い付け)の意味で使われるTOBがそうだ。takeover bidという英語はあるが、欧米発の文書中にはTOBという略語はほとんど使われていない。

 米国のFederal Reserve Board (連邦準備制度理事会)またはFederal Reserve Bank(連邦準備銀行)を略したFRBという頭字語もあるにはあるが、あちらの金融関係者やマスコミはなぜかFedという略称(abbreviation)を好んで使う傾向がある。験しにネットで検索してみると、Fed Chair (FRB議長)やFed rate hike(FRBの利上げ)の検索結果数は数十万個もあるのに、FRB 〜はいずれも数百個しかない。つまり、英文ウェブサイトで見る限り、圧倒的多数がFedを使っている。

 そう考えると、日本の組織名などを英語に訳すときはしかるべき注意が必要だ。読み手が金融関係者ならBOJはBank of Japan(日本銀行)のことだとすぐにわかっても、NHK(日本放送協会)はもともと日本語だから、一般の外国人には通じないかもしれない。この場合は文中の初出時にJapanese public broadcasterなどと意訳を前後に補う配慮があってもいい。

 猫の話に戻るが、最近ではわが家の周囲にも野良猫の姿をほとんど見かけなくなった。わが家の猫どもも完全に室内飼いだ。自由気ままに外に出かけられない飼い猫には一抹の侘しさも感じるが、他所様への迷惑や猫自身の健康安全を考えると止むを得ない。これも言葉の選択と同様、その時々の社会の大勢に従うべきなのだろう。

(『財界』2016年4月5日号掲載)


※掲載日:2016年4月19日
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