Historic 歴史に残る (連載第344回)

 仕事柄英文を訳したり書いたりしていると、単語の選択に戸惑うことがままある。同じ名詞から派生した形容詞に -icで終わるものと -ical で終わるものとがあるのもそうだ。うっかりすると間違える。

 ここで、比較的簡単な例からひとつクイズを出そう。「クラシック音楽」を英語で何というか。正解は、classic music ―ではなくclassical musicだ。classical は「古典的な」という意味だが、classic は「一流の」「傑作の」という意味で使われることが多い。これくらいは辞書を引いてもわかるが、迷ったら言葉全体を" "(二重引用符)で括ってGoogleの検索窓に入れてみるといい。検索ヒット(結果)数は"classical music"が断然多い。"classic music"はあっても、日本語のウェブサイトによく見られる誤用か、それとは違う意味で使われている。

 economy(経済)から派生した形容詞 economic と economical も同様に、十中八九は意味が異なる。前者は「経済の」「経済に関する」だが、後者は「経済的な」「節約になる」という意味だ。たとえばefficient economic developmentは「効率的な経済開発」と訳すが、efficient and economical developmentなら「効率的で経済的な開発」と訳すのが無難な線だ。だが、Googleでざっと検索してみると、economic と同じ意味でeconomical が使われている例も案外多い。実際には前後の文脈から判断するしかない。

 history(歴史)の派生形容詞にもhistoric と historical とがある。前者はたいてい「歴史に残る」「歴史的な」という意味だ。一方、後者は「歴史に関する」「歴史上の」という意味で使われる。たとえば「歴史的な演説」なら historic address(historic speech)と言うが、「歴史博物館」は historical museumと言う。この使い分けも Google 検索で調べると一目瞭然だ。

 ただし、後ろに続く名詞によってはどちらとも言える場合、意味の判別が難しいことがある。historic event は「歴史的な[大]事件」「歴史に残る事件」だが、historical event には(実際にあった)「歴史上の事件(出来事)」を広く指す。もっともこれは、史実をどう評価するかという主観的な問題でもあり、書き手によっては、私のような翻訳者が気を回すほど使い分けを意識しないで使っている可能性も否めない。

 このところ世間を騒がせている数々の政治的、社会的事象にしても、その直後は「歴史的事件」に見えても、後世から見れば単なる「歴史上の出来事」に過ぎないこともありそうだ。

(『財界』2015年11月3日号掲載)


※掲載日:2015年11月17日
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