Selfie stick 自撮り棒 (連載第343回)

 昨年から世界中で急速に普及した新語に selfie(セルフィー、自撮り[写真])がある。今春、近所に花見に出かけたら、自撮り棒に取り付けたスマートフォン(スマホ)で満開の桜を背景に写真を撮っている人を何人か見た。最近はおそらくどこの行楽地でも同様の光景を見かけるのだろう。

 日本語で「自撮り棒」というくらいだから、英語ではたぶん selfie stick と言うのだろうと思って、例によってインターネットで検索してみたところ、はたしてその通りだった。camera extension pole(カメラ延長棒)などと表記している例もあるが、今ならselfie stickのほうが通じそうだ。昔ながらのカメラに使う一脚は monopod (モノポッド)と言うが、スマホ用のそれは selfie monopod とも呼ばれているようだ。

 このところ、公共空間での自撮り棒の使用が安全上、問題視されている。人通りの多い往来で自撮り棒を使うと、誤って他人を突いて負傷させるおそれがある。駅のホームでは架線に引っかかるなどして危険だという理由で、自撮り棒を使った撮影を禁止している(Selfie sticks are NOT allowed)ところが多いようだ。

 自撮り棒を使った撮影は、場合によっては撮影者自身の生命を危険に曝す。何でも海外では、断崖絶壁の上で自撮り棒を使って撮影していた夫婦が転落死するという痛ましい事故があったという。気の毒な話だが、通常の注意力を働かせれば危険は予測できただろう。

 博物館や美術館でも、他の見学者の迷惑になるとか、展示品を傷つけるおそれがあるといった理由で、自撮り棒の使用を禁止する動きがあるようだ。こういうところではもともと三脚やフラッシュを使った撮影は禁止(No tripod; No flash)しているのだから、ちょっと考えれば納得できることだろう。

 とはいえ、楽しい旅の思い出となる記念写真の自撮りをことごとく禁止するのも無粋だ。行楽地には、他人の迷惑にならない範囲で、自撮り棒を使って撮影できる区画を設けてはどうか。美術館なら、代表的な収蔵品のレプリカでも入口のホールか屋外の広い空間に設置して、その前では自撮りを許可してはどうだろう。

 自撮り棒の使用を禁止するにせよ許可するにせよ、観光地などではその旨を目立つところに掲示しておくべきだろう。自撮りする当人や周辺の人々を危険から守るとともに、不快な思い出を残させないように配慮することが肝要だ。

(『財界』2015年10月20日号掲載)


※掲載日:2015年10月20日
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