After Twenty Years 二十年後 (連載第339回)

 米国フロリダ州のとある法廷で最近あった話。

 強盗などの罪に問われた被告に向かって、女性判事がにわかに"I have a question for you. Did you go to the Nautilus, for middle school?"(あなたに質問があります。中学校はノーチラスでしたか)と尋ねた。するとそれまで強面だった被告は、"Oh, my goodness!"(なんてこった)と言って表情を崩したかと思うと、手で頭を抱えて泣き出した。二人は同級生だった。"I'm sorry to see you there. I always wondered what happened to you."(ここでお会いするとは残念です。どうしているかと案じていました)。子供のように泣きじゃくる被告に、判事は学生時代の思い出話を交えながらこう諭した。"He was the best kid in middle school… I hope you are able to change your ways, good luck to you."(中学校ではいちばん良い子でした。行いを改められるように願っています。がんばってね)

 どこかで聞いたような話だと思ったら、学生時代に読んだ米国の作家オー・ヘンリーの短編小説『二十年後』(After Twenty Years)を思い出した。もっともその物語では、20年後に再会した友人のひとりは犯罪者だが、もうひとりは判事ではなかったし、話のオチも違う。この作品、著作権はとうに切れていて英語の原文も日本語訳もネット上に公開されているので、ご興味のある方はどうぞ。

 あの判事と被告の間で交わされた小説さながらのやりとりは、率直なところ、報道するには値しないと思う。特に教訓めいたものもない。判事と被告が同級生同士だったのはおそらく偶然だろうし、この美談が犯罪防止に広く役立つこともないだろう。

 あの被告の胸に去来したものは何だったのか。思いがけない場で旧友から優しい言葉をかけられたことで悔悟の念が湧いたか、同級生に裁かれる今の惨めな立場を嘆き悲しんだか、はたまたその両方の感情が入り乱れたか。いずれにせよ、彼が血も涙もない凶悪犯ではなく、人間らしい感情を見せたことにほっとさせられる。同級生だったことをあえて明かした判事も、たぶんそんな思いだろう。

 このところ実家に長逗留していた私は、昔の家族写真を整理していて、長い歳月の重さと、人の運命の儚さに嘆息した。あの法廷の一場面に妙に感じ入ったのは、自分がそれだけ年を取った証しかもしれない。

(『財界』2015年8月25日号掲載)


※掲載日:2015年8月25日
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