To put it in numbers 数字で示すと (連載第338回)

 数字はどうも苦手な私だが、コミュニケーション上、効果的な数字の示し方について書いておきたい。

 スピーチに数字を盛り込むことは、まあ結構なことだと思う。かつて田中角栄首相(故人)は様々な数字をよく覚えていて、持ち前の行動力から「コンピューター付きブルドーザー」の異名を奉られた。数字をそらんじて見せることによって、「あの人は仕事ができる」と相手に思わせる効果があることは確かだ。

 問題は数字の見せ方だ。役人っぽい人が書く原稿ほど、やたらと細かい数字を並べ立てる。文書に載せる数字ならともかく、細かい数字をいくつも言われた日には、私のような鈍才は眠くなってしまう。大雑把に言うと(as a rule of thumb)、一般向けのスピーチで触れる統計値は、1〜2分で話せるA4判ダブルスペース打ちの原稿1枚にひとつか、せいぜいふたつに抑えたい。数字を省いて短くなった分、印象に残る引用や気の利いた修辞のひとつでも入れたほうがいい。

 何桁もある数字をいちいち一の位まで読み上げられると、聞かされるほうは―もしかしたら話している本人も―うんざりする。たとえば、配布資料(handout)に「平成25年の外国人入国者数は11,254,841人」と書いてあっても、それを口頭で伝える場合は、数字を丸めて(round off the number)「約1125万人」とする。これなら英語に通訳する際にも、about 11.25 (eleven point two five)millionと簡潔に表現できる。

 数字を使っていない形容を、数字で裏付けたほうがいい場合もある。たとえば、世界一流(world-class)とか世界をリードする(world-leading)などと自認しても、具体的な根拠を欠いては単なる自画自賛にしか見えない。そこは具体的な数字で実績を示すべきだろう。

 「江戸時代後期に〜」を英訳しようとして辞書を引くと、どれにも判で押したように「江戸時代」=the Edo periodとある。もちろん間違いではないが、それではたして日本史の予備知識がない外国人に、いつ頃の話かわかってもらえるだろうか。私ならそこは西暦に換算して、in the late 18th to early 19th century(18世紀後期から19世紀初期)と言い換える。江戸に置かれた幕府の時代だと政治史的または地理的な意味で強調したいなら、その前後にunder the Tokugawa Shogunate(徳川将軍の治世下), when Tokyo was still called Edo(東京がまだ江戸と呼ばれていた頃)などと補うのもひとつの手だ。

(『財界』2015年8月4日号掲載)


※掲載日:2015年8月25日
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