Country name 国名 (連載第333回)

 かつてソ連構成国だったグルジア政府の要請に従い、日本政府は「グルジア」という従来の表記を英語読みに近い「ジョージア」(Georgia)に変更するという。ふと疑問に思ってインターネットで調べてみたら、グルジア人自身の言葉では「サカルトヴェロ」とかいうらしい。なんでも、ロシア語の発音に近い「グルジア」を嫌った同国の政府が、世界で広く使われている「ジョージア」と呼んでほしいと申し入れてきたそうだ。私個人の感想を言えば、米国のジョージア州(the State of Georgia)と紛らわしいようにも思うが、そのうち慣れるだろう。

 私たちが地図やニュースで見かける地名の多くは、英語表記であれカタカナ表記であれ、外国人が使っている異名だ。その種の地名のことを英語でexonym(エクソニム)という。これに対し、現地語の地名はendonym(エンドニム)という。たとえば、Japanは前者、日本(ニホン、ニッポン)は後者に当たる。

 思い起こせば英語の勉強を始めた頃、英語で表記される国名が往々にして日本語のそれとは違うことに、ちょっとした興味がわいた。ドイツはGermany(独語はDeutschland「ドイチュランド」)だし、オランダはthe Netherlands(蘭語はNederland「ネーデルラント」。Hollandは国名ではなく同国西部の地名)だ。イギリス(英国、the United Kingdom)は、その一部を構成するEngland(イングランド)とも[Great] Britain([グレート]ブリテン)ともまったく異なる。これはその昔入ってきたポルトガル語Inglesに由来するのだとか。都市名では、イタリアのFirenze(フィレンツェ)を英語ではFlorence(フローレンス)という。最近は「ベネチア」(ヴェネツィア)と呼ばれるVenezia も、かつては英語(Venice)読みで「ベニス」(ヴェニス)といった。

 私が物心ついてから日本語表記が変わった国名に「象牙海岸」(Ivory Coast、アイボリーコースト)改め「コートジボワール」(Côte d'Ivoire、仏語)、「ビルマ」(Burma)改め「ミャンマー」(Myanmar)がある。いずれも現地政府の要請で変更したものらしい。もっとも、英語圏の呼び方は必ずしも当局の意向に沿っていない。英語のマスメディアは今でもよくミャンマーのことをBurmaと呼んでいる。私自身も、小説『ビルマの竪琴』でなじみのある「ビルマ」という言葉の響きが好きで、今でもついそう呼んでしまう。

 特に国名はどうしても政治の都合で決まるのだろうが、長く愛されてきた由緒ある呼び方はなるべく変えずに残したいものだ。

(『財界』2015年5月26日号掲載)


※掲載日:2015年5月26日
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