Strange custom 奇習 (連載第324回)

 南米ペルーのチュンビビルカという地方では、一風というか、かなり変わった風習でクリスマスを迎えるという。大人だけでなく子供までもが衆人環視の中、素手で一対一の殴り合い(fistfight)を繰り広げる。この祭りのことは、NHKのBS放送で見た『"世界一痛い"クリスマス〜ペルー・アンデスのけんか祭り』という番組(2004年制作)で初めて知った。

 「タカナクイ」(Takanakuy)と呼ばれるこの年中行事は、キリスト教が伝来する前から先住民に伝わってきたものだという。その先住民も9割方はキリスト教徒に改宗しているが、12月25日に彼らが集まるのは教会ではなく、けんか祭りの会場となる闘牛場だ。その昔、海の向こうからやってきた支配者の文化に対する彼らのささやかな抵抗だったのかもしれない。

 面白いのは、それが単なる祭りではなく、その年に住民同士に起こったもめごとを解決する手段になっていることだ。たとえばある家の父親は畑の所有権をめぐって近所の住民に挑戦状をたたきつけ、ある若者は恋敵に果し合いを申し入れる。

 もちろんこれは無謀な殴り合いのけんかではなく、きちんと審判団がついて、一方がダウンしたり勝負がつかなかったりした場合は、怪我をしないうちに対戦を止めさせる。見た目には素手でやるボクシングのようだ。

 けんかが終わったあとは相手と握手やハグをして互いに健闘をたたえ合う。中には恨みを残す場合もあるだろうが、番組で見た出場者はいずれもきれいさっぱり仲直りしていた。そうやって一年のいざこざを忘れ、気持ちも新たに新年を迎えるのだろう。

 この類のイベントを単なる蛮習(barbarous custom)と見て笑い飛ばすのは簡単だが、私はちょっとうらやましく思った。費用も時間もかかる裁判を延々と続け、あるいは選挙で政敵を打倒し、たとえ勝ったとしても後味の悪さが残る文明的な紛争解決方法よりも、殴り合うことで相手と痛みを分かち合って遺恨を水に流すあのやり方のほうが、もしかしたら動物としては理にかなっているのかもしれない。そういえば、わが家の猫たちも電気ストーブの前の場所をめぐってときたま猫パンチの応酬をしているが、その後はまた仲良くしている。

 私が若かったころの子供向け漫画にはガキ大将と対決する場面があったが、あのような暴力的な設定は今日の社会では受け入れられにくい。だが現実を見ると、いわれなき暴力や陰湿ないじめ、青少年の自殺は昔よりも増えているようだ。暴力を肯定するつもりはないが、けんか祭りのようなカタルシス(精神浄化)効果のある奇習を少しは社会に残しておいたほうがいいのかもしれない。

(『財界』2015年1月13日号掲載)


※掲載日:2015年1月27日
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