Communication tool コミュニケーション手段 (連載第316回)

 ひさしぶりに上梓した新著に読者から寄せられた読後感やレビューを読んで、改めて考えさせられるところがあった。そのひとつは、インターネット時代に生きる自分のコミュニケーション手段だ。本を読み返してみたら、新手のコミュニケーション手段を使ってみたいという興味や意欲と、その必要はないという否定的な感情とが自分の中で入り混じっている。

 現在50代前半の私が社会に出た1980年代半ばの通信手段は、手紙、電話、ファックスやテレックスくらいしかなかった。その後パソコン通信で電子メールを使うようになり、さらにインターネットを導入したのは会社を辞めて3年後の1996年のこと。その当時の通信は、基本的には一対一の私信だった。電子会議室や電子掲示板(BBS)の類はパソコン通信の時代からあったが、その多くは会員制(members only)で、投稿できる記事の内容も制限されていたように記憶している。

 インターネットの著しい普及に伴い、今日のコミュニケーション手段は多様化している。特に、ブログやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の普及によって、誰でも簡単に、文字情報だけでなく画像や映像を不特定多数に公開できるようになった。SNSでも設定によっては読み手を制限できるが、閲覧を許可した読み手全員が書き手の秘密を守れるとは限らない。ひとつ間違えると、プライバシーや不用意な発言がネット上に拡散して思わぬ結果を招くこともある。

 インターネットを使い始めたころ、自らが発信した情報でトラブルに巻き込まれた経験がある私は、これでも情報発信には慎重なほうだ。私が一部のSNSに後ろ向きなのは、そのためでもある。

 実は私も以前、実名登録が原則とされている某SNSの導入を検討して、何人か知人の名前を入れて検索してみたが、誰も見つからなかった。私が使っているツイッターでも、直接知っている人はひとりかふたり。私が古い世代に属しているからだろうが、もしかしたらSNSの実態は、喧伝されているほどではないのかもしれない。

 もちろん、SNSには利点もある。見知らぬ人々と情報や意見を交換したり、同じ画像を見て共感したり、旧友を見つけたりできるのは確かに便利だし、すばらしい出会いや体験をもたらすこともあるだろう。

 だが私の場合、身近な人々とのやりとりは今も電子メール、電話や手紙といった従来型の通信手段に頼っているし、そのほうが安心できて心地よい。

 コミュニケーション手段は、そのときの状況や用途、自分自身の立場や相手との関係に応じて選ぶ(あるいは使わない)のが上策かと思う。

(『財界』2014年9月9日号掲載)


※掲載日:2014年9月22日
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