To kill time 暇つぶし (連載第311回)

 老親が長期入院した経験から、ひとつ書いておきたいことがある。病室での長い時間をどう過ごしてもらったらよいかについてだ。

 義母の場合、入院当初は「病人は検査があるからけっこう忙しいのよ」と言って健気に振る舞っていた。体調が比較的良かった頃はまだ好きなクロスワードパズルをしたり、私が差し入れた本誌の記事を読んだりしていたが、身体が衰えるにつれて、それも難しくなった。

 幸い、金は無くとも時間だけはたっぷりある家内と私は、交代で見舞いに訪れては自宅の近所の様子を話したり、飼い猫などの写真をタブレットで見せたりすることができた。それでも、その前後の長い時間は、義母もさぞ手持ち無沙汰だったと思う。

 そこで頼ったのはテレビとラジオだ。目をつぶったままでも聞けるラジオがいいと思って1台置いたものの、相部屋の病室では音を大きくできない。耳が悪かった義母は補聴器やイヤホンを使っていたが、それも限界があった。見舞いの帰り際には静かな音楽を流している局に合わせても、番組が変わった途端に騒々しくなる。結局、本人が好みそうな、比較的静かな曲を選んでCD-RWに録音し、それをCDラジカセで流しておいた。

 プリペイドカード式のテレビはだいたいどの病室にもついている。だが、心身ともにすっかり衰えた老人は、見たい番組を自分で選ぶのさえ難しくなる。実際、義母は入院中、テレビを見ることはほとんどなかった。

 今はチャンネル数が多いのだから、ここはひとつ、人生の終焉に差し掛かった、あるいは童心に帰った高齢者の気持ちを和ませる専用チャンネルを作ってもらえないだろうか。東京メトロポリタンテレビジョン(Tokyo MX)には、何気ない景色やかわいい動物の映像に音楽をかぶせてニュース字幕を流す『ヒーリングタイム』という番組がある。一種の埋め草(フィラー、filler)番組だろうが、ああいうのがいい。合間には、手足を動かす軽い体操や簡単なクイズのような5分程度のミニ番組を入れると、刺激になっていいかもしれない。一方、騒々しいCM、複雑怪奇なドラマ、災害のような恐ろしいニュース映像などは、刺激が強すぎて不向きだ。

 専用チャンネルを作るのが無理なら、あまり活用されていないサブチャンネルで放送できないだろうか。ワンセグ放送なら携帯電話やそれ専用の安価な小型受像機でも見られる。

 これから高齢化に向かう世代なら携帯電話やタブレットを使った暇つぶしもできようが、私の親の世代は、娯楽の大半をテレビに頼ってきた。そのような高齢者が、人生最後の時間を心穏やかに過ごせるようなテレビチャンネルの開設を切に望む。

(『財界』2014年6月24日号掲載)


※掲載日:2014年6月24日
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