Inherent territory 固有の領土 (連載第309回)

 小学校で使われる教科書に、尖閣諸島と竹島が「日本固有の領土」と記載されるそうだ。領有権の主張は独立国として当然の姿勢だが、その「固有の領土」という言葉はいまひとつわかりにくいと私はかねがね思っている。

 日本の外務省のウェブサイトを見ると、これを英文では"an inherent part of the territory of Japan"などと書いてある。験しにインターネットでinherent territory(固有の領土)と入れて検索したら、はたして隣国でもそのように主張しているようだ。双方が固有の領土と言い張っても水掛け論にしかならず、そこに解決の糸口を見出すことは期待できない。

 固有の領土という日本語をそのまま英語に翻訳するだけでは、諸外国にはその真意が通じにくいだろう。島国の日本とは違って、特に陸続きの多くの国々にとって、領土とは、戦争または武力による威嚇の結果、獲ったり獲られたりするものであったからだ。

 国家が領土の拡大を目指す時代はとうの昔に過ぎ去ったと思っていたのに、ロシアが突然、クリミア半島を併呑したのには驚いた。ロシア人はそれを固有の領土と思ってきたのかもしれない。しかし、同半島はその昔、フビライが率いた蒙古の末裔であるタタール人が国を営み、後にオスマントルコ帝国が支配下に置いた地域だ。したがって、クリミア半島はウクライナ人だけでなく、それらの民族にとっても父祖伝来の地といえる。その帰属の変更をロシア人の意思で勝手に決めるのはいかがなものか。

 尖閣諸島と竹島は、私の理解するところ、日本が武力を行使または威嚇することなく領有した無主の無人島だ(無主地先占)。千島列島はその昔、帝政ロシアとの外交交渉で平和裏に国境を確定したのに、太平洋戦争末期に旧ソ連が侵攻して占領した。固有の領土という曖昧な言葉を振りかざすよりも、このような歴史的背景をきちんと説明することで、平和を愛する諸国民の理解を得たいものだ。

 クリミア半島をめぐる情勢を見る限り、現ロシア政府も北方領土を手放すことはないだろう。先方が譲歩しても、四島中の二島返還か、せいぜい面積比での折半が関の山か。一方、日本政府がその四島を固有の領土と主張し、学童にもそう教える限り、時の政権の独断や解釈変更でその一部を割譲する妥協は許されない。となると、北方領土の返還交渉は不可能に近い。

 思うに、領土紛争はもともと、平和的な手段では解決しにくい性質のものなのだろう。それを無理やり解決しようとして、そこに住む人々や全国民を戦乱に巻き込むのは、愚の骨頂だ。若者たちには、辺境の地をめぐる主張よりもまず、隣国と協調し平和に共存する姿勢から学んでほしい。

(『財界』2014年5月27日号掲載)


※掲載日:2014年5月27日
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