History repeats itself 歴史は繰り返す (連載第307回)

 ロシア海軍がクリミア半島沿岸で船舶を自沈させてウクライナ軍艦を港内に閉じ込めた映像を見て、今時こういう手を使うのかと妙に感心した。閉塞作戦と呼ばれるこの戦法は、古くは日露戦争(1904-05年)で日本海軍が旅順港内のロシア艦隊に対して使った作戦だ(もっとも、当時のその作戦は失敗に終わっている)。砲火を交えずに相手の戦力や戦意を低下させる妙策なのだろう。

 事の善悪は別にして、昔ながらの力技に関する限り、ロシアという国は底知れぬ強さを発揮するようだ。長く厳しい冬を乗り越える中で身についた国民性の賜物だろうか。かつてのソ連時代には、第二次世界大戦中はドイツ軍の侵攻を受けて甚大な損害を被りながらも、兵器を量産してこれを打倒した。その後も経済力は脆弱でありながら、巨大な核兵器体系を維持することで、西側の雄である米国と長年にわたり張り合った。ソ連の解体後も、ロシアは豊富な天然資源を活かして強国の座を維持している。

 ロシアには、良い意味で枯れた技術(成熟した技術、mature technology)を使いこなしてきたという印象を受ける。宇宙開発の分野では、米国のスペースシャトル退役後も、それよりずっと古いロシアのソユーズロケットが現役で活躍している。細かい部分は改良されているのだろうが、古い技術を上手に使い続けるその姿勢には、とかく新しい物好きの日本人は一目置いてもいい。

 しかし、ウクライナの政変に乗じてクリミア半島に兵力を展開し、国際社会の批判を物ともせず編入・併合(annexation)に踏み切ったプーチン大統領のごり押しはいかがなものかと甚だ疑問に思う。国内の一部地域の多数派が住民投票(referendum)でいとも簡単に独立や隣国への編入を決められた日には、国家の存立基盤としての領土主権が否定され、国際社会の秩序が失われかねない。

 かつてクリミア半島を領土の一部としていたロシアにしてみれば、今回の介入で失地回復を目指したつもりかもしれない。だが、軍事力を背景に一方的に国境線を引き直そうとするその所行は、侵略(invasion)と見られても仕方がない。国際社会が何の手も打たずにこれを見過ごすと、かつて1990年代に旧ユーゴスラビアで起こったような、つい最近まで平和裏に共存してきた民族同士が血で血を洗う戦乱が起こる可能性が危惧される。領土紛争や民族対立を抱える他の地域に飛び火する危険も招きかねない。そのような連鎖反応によって多数の人命が失われる愚が繰り返されることのないように、当事国だけでなく国際社会全体が英知を結集することを切に願ってやまない。

(『財界』2014年4月22日号掲載)


※掲載日:2014年4月22日
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