Political process theory 政治過程論 (連載第139回)

 大学時代の恩師、内田満先生(早稲田大学名誉教授)が〔2007年〕1月26日に急逝された。享年77。3月18日に都内で催された「お別れの会」にはおそらく数百人を超える人々が献花に訪れ、先生のご遺徳を偲んだ。

 浅学な私がこの欄で偉そうに政治家の言葉やら資質やらを論じることができるのも、その多くは大学時代に内田先生のゼミで学んだことが下地になっている。米国流の政治学(political science)を取り入れ、政治を制度(institution)面からではなく、選挙、投票行動、世論、圧力団体など動態的(dynamic)な側面から研究する政治過程論で名高い先生の門下で学べたことは、私のささやかな誇りであり、大切な思い出でもある。

 会場で配付された先生のご遺作『政治の品位―日本政治の新しい夜明けはいつ来るか』(東信堂)は明快平易に書かれていて、ふた昔も前に勉強した政治学に縁遠くなった今の私にも面白く読めた。前にここで言及した「マニフェスト」(manifesto、政権公約)という言葉が、実は1890(明治23)年の第1回総選挙当時、内務官僚であった末松謙澄によってすでに「マニフェストー、すなわち選挙檄文」と訳されていた(p. 23/p. 124)ことなど、新しい発見もいくつかあった。欧米の政治家の名言名句が随所で紹介されていたところも、たいへん興味深く読めたところだ。

 内田先生は、いかにも研究者らしく物事を客観的に捉える方だったという印象が私には残っているが、本書を読むと、この国の民主主義の将来を強く憂うような記述も随所に見られた。かつてはマスメディアに登場したり、選挙制度改革に関わったりするなど活躍されていた先生だが、晩年にあってもなお、この国の行く末を気にかけていらしたのだろう。

 個人的な思い出話で恐縮だが、私が初めて上梓した『英語屋さん』をお送りしたとき、ご多忙の先生からすぐに読後感を書いたハガキをいただいて、すっかり恐縮したことがあった。その後、ゼミの同期生で惜しくも早世されたニュースキャスターの久和ひとみさんのご葬儀でお目にかかったときに、「うちのゼミからもいよいよベストセラー作家が出たねぇ」と目尻を下げて仰ってくださった先生の優しい笑顔も忘れられない。

 先生のご冥福をお祈りしたい。

(『財界』2007年4月24日号掲載)

※掲載日:2007年4月24日/再掲載日:2015年1月24日
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