Saber rattling 武力による威嚇 (連載第122回)

 「戦争とは他の手段による政治の継続である」(War is the continuation of politics by other means.)は、プロイセンの軍人クラウゼビッツ(Karl von Clausewitz, 1780〜1831)が著書『戦争論』に残した至言である。この言葉が時代を超えて今も引用されるのは、それが戦争というものの本質をよく捉えているからだろう。

 21世紀の今日、戦争や武力による威嚇を絶対悪と見なす人々が昔より増えている一方、残念ながら、それらを政治的な手段として用いる国は後を絶たない。

 〔2006年〕7月5日未明、北朝鮮が数発のミサイルを日本海に向けて発射した。もちろん、自ら戦争を起こすほど国力もない彼の国は、冷静に国益を計算しながら、あえてこのような瀬戸際政策(brinkmanship)を取っているに違いない。それにしても、国際社会の度重なる制止にもかかわらず、緊張を高めかねないこのような挑発的行動(provocative act)を繰り返す非常識な態度には首をかしげざるを得ない。

 英語にはsaber rattling(武力による威嚇)という面白い表現がある。saber(またはsabre、サーベル、軍刀)をrattle(カタカタと鳴らす)という原義から転じて、「軍事力を誇示して相手を脅す」という意味で使われる。言葉の起源を調べたことはないが、gunboat diplomacy(砲艦外交、武力外交)と同様に、帝国主義時代に端を発するものだろう。

 試しに"saber rattling"と"North Korea"の二つをGoogleに入れて検索してみると、使用例が山のように出てきた(もっとも、North Koreaの代わりにAmericaまたはUSAと入れても、結果は同じようなものだが)。

 外国の軍事的挑発には安易に乗らないのが賢明な方策である。弱い犬ほどよく吠える。こちらが怯えた様子を見せると、さらに吠えてくるものだ。

 こういう事件があると、必ずといっていいほど強硬策を求める意見が出てくるが、周到な戦略や成算もないままやみくもに力を行使したところで、いたずらに緊張を高めるだけだ。政府は制裁措置(sanctions)の発動を決定したが、どの段階でどのような措置を取れば、どの程度の効果や影響が予想されるかよく見極めながら、慎重に事を進めるべきだろう。

 自国民を抑圧し隣国に武力をちらつかせる独裁国家が近隣にある以上、この国としては、辛抱強く、地道に対処していくしかない。

(『財界』2006年8月8日号掲載)

※掲載日:2006年9月5日/再掲載日:2015年1月21日
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