Happy Holidays! 楽しい祝祭日を (連載第109回)

 感謝祭からクリスマスにかけての年末商戦を前にした先月〔2005年12月〕、米国の某大手小売店で、この季節の挨拶をめぐって客との間でひと悶着あったらしい。インターネットで調べたところ、事の顛末はこうだ。

 その小売店は、"Merry Christmas"(メリークリスマス)の代わりに"Happy Holidays"(楽しい祝祭日を)という挨拶を使っているのはけしからんという苦情を客から受けた。それに返事のメールを出した従業員が、こともあろうに、クリスマスの起源は異教の習慣にあるなどと余計なことを書いたものだからさあ大変。その回答に怒ったカトリックの団体が、他の諸団体にボイコット(boycott、不買運動)を呼びかける騒ぎに発展した。

 結局、問題のメールの内容については店側が陳謝し、それを書いた従業員もすでに退社したと説明したことから、ボイコットの呼びかけは中止された。だが、店側が"Merry Christmas"の代わりに"Happy Holidays"を使う方針を撤回していないので、団体側には不満が残ったようだ。

 店側の説明によると、年末のこの時期はクリスマス以外にもユダヤ教のハヌカ(Hanukkah)やアフリカ系アメリカ人のクワンザ(Kwanzaa)などの民族や宗教の祝祭で買い物に訪れる人もいるので、すべての人々に均しくお祝いの気持ちを伝えるために"Happy Holidays"という言葉を選んで使っているという。今日の米国では常識だし、かの宗教団体もそのこと自体はボイコットの理由にしていない。

 それにしても、季節行事を祝う言葉がトラブルの原因になるのは、多民族国家・米国のお国柄だろうか。そこまで槍玉に挙げられるようになった世相の背景には、グローバリゼーションへの一種の反動として世界各地で高まっている民族主義や、2001年の同時多発テロ後にくすぶり続けている宗教間の摩擦があるのかもしれない。

 翻って、この国はどうだろう。政治家が「日本は単一民族の国」などとうっかり口にして批判を招くようなことはあっても、誰が「メリークリスマス」と言わずとも、誰を相手に「どうぞ良いお年を」(Happy New Year)と言おうと、それで叱られることはまずないだろう。

 そういうことまで意識することなく、国内の甘い空気の中で暮らせる幸せをかみしめながら、今年も年の瀬を迎えられたのは有り難い。

 読者の皆様、どうぞ良いお年を。

(『財界』2006年1月17日号掲載)

※掲載日:2006年1月16日/再掲載日:2014年12月24日
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