Natural or man-made disaster? 天災、それとも人災? (連載第104回)

 "This is a once in probably a lifetime event. The city of New Orleans has never seen a hurricane of this strength to hit it almost directly."(これはおそらく一生に一度あるかないかの出来事でしょう。ニューオーリンズ市がこれほど強力なハリケーンに直撃されたことはありません。)

 深刻な面持ちでそう発表したニューオーリンズ市長の言葉がけっして誇張でないことはすぐにわかった。The Big Easyの愛称でも親しまれているこの都市の大半が先日〔2005年8月下旬〕のハリケーン「カトリーナ」の来襲で水没し、夥しい数の犠牲者と避難民が発生したのである。

 日本でも災害が起きるたびに、一元的に災害対策の指揮を執る政府機関のお手本のように伝えられてきた米政府のFEMA(Federal Emergency Management Agency、連邦緊急事態管理庁)が、今回は非難の矢面に立たされている。9.11同時多発テロ以降の組織再編で権限が縮小された影響を重く見る向きがある一方、最高責任者であるブラウン長官に災害対策責任者としての経験が実はなかったのではないかという経歴詐称の疑惑まで取り沙汰されている。

 もちろん、未曾有の勢力を持つ巨大なハリケーンが直撃したのだから、いずれにしても相当の物的損害は免れなかっただろう。避難勧告を拒んで家に留まり続けている一部の市民の自己責任もある。それでも、このハリケーンによって町が水浸しになることが予測されていた以上、避難計画の立案と実施が適切に行われていれば人的被害はずっと少なかったのではないかという批判は免れまい。

 平時には有能な役所や行政官であっても、非常時にリーダーシップを発揮できるとは限らない。1995年に阪神淡路大震災が発生したときは、主管官庁とされていた当時の国土庁がほとんど機能せず、無能な国土庁長官に替えて別の閣僚を災害対策の特命相として急遽起用したことがあった。その後、制度面や人事面での改革も進んだようだが、昨今の天災の頻発を目の当たりにすると、都市住民のひとりとしては不安を感じずにはいられない。

 大災害が起こったあとになって、あれは天災か人災か(Natural or man-made disaster?)という不毛な議論を戦わせるのではなく、平時から最悪の事態に備えた防災システムの構築や人員配置に取り組んでもらいたいものである。

(『財界』2005年10月18日号掲載)

※掲載日:2005年10月26日/再掲載日:2015年1月14日
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