Sound bite (contd.) サウンドバイト(続) (連載第103回)

 米国の大統領やその候補のスピーチの原稿やディベートの台本は、専門のライターやコンサルタントが知恵をしぼって用意することが多いようだ。サウンドバイトとしてマスメディアに取り上げられる気の利いた文句の多くは、彼らの手になるものらしい。

 米国のブッシュ大統領が演説で使って一躍有名になった「悪の枢軸」(the axis of evil)という言葉も、彼のスピーチライターが考えたという(本連載第46回 An Axis of Conflict「対立軸」参照)。

 もちろん、ただ単に気が利いただけの言葉がサウンドバイトと化して世間の注目を集めたからといって、それがただちに選挙戦の勝利に結びつくとは限らない。

 1984年の米大統領選挙で民主党候補の座を目指していたウォルター・モンデールは、当時米国で流行していたハンバーガーCMのコピー"Where's the beef?"(牛肉はどこ?=はたして内容があるのか)というフレーズを対立候補にぶつけて聴衆を沸かせた。この一撃がどれほど効いたか定かでないが、相手の候補はその後、二度と浮かび上がらなかった。

 1988年の大統領選挙では、民主党の副大統領候補だったロイド・ベンツェン上院議員が、かつてのケネディ大統領ばりの若さと風貌で売っていた共和党の対立候補ダン・クエール上院議員を次のひとことでやりこめた場面が大いに受けた。"I knew Jack Kennedy. Jack Kennedy was a friend of mine. Senator, you're no Jack Kennedy."(私はジャック・ケネディを知っていました。ケネディは私の友人でした。しかし上院議員、あなたはケネディとは全然違います。)

 これら二つのセリフはニュース映像にたびたび登場し、日本国内でテレビを見ていた私が知っているくらい有名な言葉となった。どちらも、相手をやりこめるという意味では大きな効果があったに違いない。しかし、用意周到に準備されたと思われるセリフを放ったこれらの候補は、いずれも最後には敗れている。

 要するに、この手のセリフを意図的に使えれば確かに有利ではあっても、それだけで選挙の勝敗が決まるほど世間は単純なものでもないということだろう。特に、相手を貶めるような言葉は、それを使った者にとっても必ずしもプラスにはならない。

 政治指導者としての前向きな理念や信条が盛り込まれた言葉こそが、勝利をもたらすのだろう。

(『財界』2005年10月4日号掲載)

※掲載日:2005年10月15日/再掲載日:2015年1月13日
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