Curse word 罵詈雑言 (連載第84回)

 映画俳優を呼んでインタビューする米国のあるテレビ番組で、司会者が必ず尋ねる「10の質問」の中に"What is your favorite curse word?"(好きな罵り言葉は何ですか)というのがある。

 この質問に対する答えがどうであれ、聴衆にはよく受けるようだ。普通は禁句とされるような汚い罵り言葉を、美男美女の映画俳優が公衆の面前で照れくさそうに言うところに面白さがあるのだろうか。英語を母国語にしない私のような日本人にはわからない、言葉の微妙な部分が持つおかしさもあるに違いない。

 以前、私が日本語訳を担当した英語の表現集に、使うべきではないとされる表現がいくつか出ていた。使うべきではない言葉をどうして載せてあるのかというと、映画か何かで聞き知ったその類の言葉を、時と状況も考えずに使ってしまううっかり者がいるかもしれないからだ。

 その類の英語表現がどの程度までタブー視されているかと突っ込まれると、専門家ではない私にはよくわからない。ただ、日本語でも、人品卑しからぬと自他ともに認める紳士淑女が公の席で「こん畜生」などと言わないのと同じことで、人前ではFuck you!とかAsshole!などと口にしてはならないことくらいは察しがつく。

 禁忌(タブー)というものは本来、理屈で説明されるものではない。昔は、不遜な言葉をうっかり口にしようものなら、お年寄りから「そんなことを言うとバチが当たる」とたしなめられたものだ。バチが当たる理由はあまり説明されなかったし、あえてしてもらおうとも思わなかった。人として口にしてはいけないこと、やれば災いを招くおそれのあるようなことはもともと、身にしみこませるようにして教えられるものだった。

 無謀にも、戦火やまないイラクに単身で旅行に出かけた日本人青年が命を落とした。海外情勢に疎すぎたという見方もできるが、それ以前に、近寄ってはいけないものを避ける直感のようなものがもう少し育まれていたらと思うと、残念でならない。

 先人が言ったように、「君子危きに近寄らず」である。

(『財界』2005年1月4日号掲載)

※掲載日:2005年1月25日/再掲載日:2015年1月9日
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