The Great Communicator グレート・コミュニケーター (連載第74回)

 米国のロナルド・レーガン(Ronald W. Reagan, 1911〜2004)元大統領〔第40代、在職1981〜1989年〕が亡くなった。驚くべきは、表舞台から姿を消して久しい今もなお高いその人気である。

 その根強い人気は、冷戦を終結に導いたといわれる強い指導力もさることながら、彼の楽観的で明るい性格とユーモアを巧みに交えた話術によるところが大きい。

 彼のユーモアあふれる言葉で今もなお語りぐさになっているのは、1984年に行われた大統領選挙の候補者テレビ討論会で喝采を浴びた次のひとことだ。

 当時すでにかなり高齢だったレーガン大統領の健康を懸念する質問が出ると、当の大統領は、ひと呼吸おいてからこうやり返したのである。

 「私は年齢の問題をこの選挙の争点にするつもりはありません。対立候補の若さや経験の乏しさを政治目的のために利用したくはありませんから…」(I will not make age an issue of this campaign. I am not going to exploit, for political purposes, my opponent's youth and inexperience.)

 そのとき対立候補であった民主党のウォルター・モンデール氏(Walter F. Mondale、後の駐日大使)はレーガン大統領より年下でこそあれ、上院議員や副大統領を歴任した大物で、けっして経験の乏しい若輩ではなかった。だが、そのひとことで会場をつつんだ爆笑にかき消されたのか、この問題はそこで立ち消えになってしまい、レーガン大統領は見事に再選された。

 考えてみれば、レーガン大統領のその言葉は、「再選後の任期満了時には77歳という高齢に達するあなたが、大統領職の激務に耐えられるのか」という疑問に対する回答にはなっていない。

 その切り返しはおそらく、高齢という弱点を突いてくる質問をはぐらかすために、レーガン陣営があらかじめ用意しておいた切り札だったのだろう。答を切り出す際の間のとり方の良さは、俳優出身である彼の経験が成せる業かもしれない。

 見習うべき点は、当意即妙な答を用意しておくという、その周到さにある。米国では、人前で話すことに慣れた企業のトップでも、スピーチの原稿には自らが手を入れては、何度も練習するものらしい。誰かが用意した原稿をただ棒読みにするのとはまるで違う。

 コミュニケーションを大切にすることで良き手本であったレーガン氏は紛れもなく、私も好きな政治家のひとりだった。合掌。

(『財界』2004年7月20日号掲載)

※掲載日:2004年8月16日/再掲載日:2015年1月7日
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