イラクに自衛隊を派遣する理由について、この国の首相や関係閣僚の説明は、どうにもわかりにくい。国会で「復興支援と人道援助」を口にしたその直後に「米国との同盟関係は大事」だから、空自の輸送機で連合軍の兵士を運ぶのもありだという。テレビの討論番組で「中東に石油供給を依存しているわが国は…」と国益を強調していたかと思うと、別の場では「日本だけが身勝手なことはできない」と国際協調を根拠に持ってくる。手当たり次第に言い訳をくっつけているだけにしか見えない。
「国力に応じた人的貢献」をうたう割には、派遣するのが陸海空合わせて僅か千人余りというのも不思議な話だ。世界第2位ともいわれる多額の軍事費を使っている国なら、その3倍は出してもおかしくない。給水などの人道支援に従事するといっても、あの広い国土では所詮、焼け石に水だろう。
どうも釈然としないまま、この正月〔2004年1月〕にぼんやりとNHKの昔の大河ドラマ『独眼竜政宗』の再放送を見ていたら、その背景が何となく納得できた。豊臣秀吉の小田原攻めに遅参した伊達政宗が連れて来たのは、ごく少数の手勢だけ。この時の政宗には本気で参戦するつもりなどなく、ただ秀吉に帰順の態度を示しに来ただけだった。
僅かな部隊をイラクに上陸させる最大の目的は、要するにそういうことだ。米国の政府高官が口にしたとかでひところ話題になったあの"show the flag"(旗幟を鮮明にする)を実行に移して見せたのである。国連ではなく米国が主導する「国際社会」の一員として米英連合軍の旗下に馳せ参ずる政策を、この国の現政権が「国益」にかなうと判断したのである。
英語にはpresenceという言葉がある。軍事力や経済力を示すことで影響力を及ぼしうるような「存在感」という意味だが、それに対応する漢語がないので、よく「プレゼンス」というカタカナ語に訳される。
その概念を用いていえば、この状況は、米国の同盟国として小なりといえども占領地域でmilitary presence(軍事プレゼンス)を示すことを求められたこの国の政府がそれに応じたものと理解するのが、最もわかりやすい。
それなら堂々とそう説明して、国民の正しい理解と是非の判断を求めてもらいたい。いやしくも日本国の首相や閣僚たるものが、姑息な弁明に終始しているようでは困る。
(『財界』2004年2月24日号掲載)