A Slip of the Tongue 失言 (連載第52回)

 このところ〔2003年当時〕政治家の失言が新聞紙上をにぎわしている。別に今に始まったことではないが、最近の失言内容は、国会議員や閣僚としてはあまりにも幼稚であり、時として下品でさえある。

 「失言」に当たる英語の表現にa slip of the tongueというのがある。文字通りの意味は「舌が滑ること」だが、日本語の「口が滑る」と発想が似ているのは面白い。

 アメリカの〔ジョージ・ウォーカー〕ブッシュ大統領〔第43代、2001年〜2009年在職、第41代大統領ジョージ・H・W・ブッシュの子〕も失言が多いことで知られる。たとえば、イラクとの開戦前に行った演説では、「そちら(イラク)が武装解除しなければ、我々(米国)が武装解除する」(You disarm, or we will.)と変なところで言葉を終わらせて失笑を買った。これでは、米国が自らを武装解除するという意味に取られかねない。

 しかし、ブッシュ大統領が揶揄されるのは、「失言」というよりはむしろ、malapropism、つまり言葉の珍妙な「言い間違い」のおかしさによるものが多いように思う。

 これに対し、この国で往々にしてあげつらわれる政治家の失言は、公の場でうっかり本音を言ってしまったものが多いようだ。

 そこで本音として表れた思想や政治信条の是非をここで云々するつもりはない。だが、この種の失言が多いような人は、プロの政治家としてはやはり失格だろう。

 人間に本音と建前があるのは当然だとしても、時と場所に応じてそれらを適切に使い分けられないようでは、記者会見の席に立つ公人としては、どうも心もとない。地元選挙区の小さな集会では受けるかもしれない下世話なネタやいかがわしい冗談も、全国をカバーする報道機関を前にして言うべきではない場合もある。

 そう書きながらふと思ったが、権力者である政治家にときおり失言があるのは、まだ愛敬のうちと言えるかもしれない。

 某政党では、不祥事を起こしたという国会議員を、その事実関係をほとんど明らかにしないまま、有権者から隠すように辞職させてしまった。公人である本人の弁明を聞く機会がまったくなかったのには、驚愕を禁じえない。

 不都合な発言を完全に封じ込めて説明責任もろくに果たさない清廉潔白な政党よりも、不覚にも飛び出した失言をあわてて取り繕うダーティな政治家を抱えている政党のほうが、今日の自由な情報社会には相応しいように感じられてならない。

(『財界』2003年8月19日号掲載)

※掲載日:2003年9月12日/再掲載日:2015年1月4日
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