Season's greetings 年末年始のご挨拶 (連載第300回)

 師走のこの時期に届くカードにSeason's Greetings とプリントされたものがある。手元の辞書には「時候の挨拶」とあるが、感謝祭から年末にかけて出されるこの種のカードに書かれているこの文言は「年末[年始]のご挨拶」にあたる。差出人や相手がキリスト教徒ではない場合、[Wishing You] A Merry Christmas (メリークリスマス)と書くのは剣呑なので、その代わりに使われる無難な表現だ。

 この国にも年賀状を出す慣習がある。年に一度くらい、無沙汰を詫びつつ新年を寿ぎ、互いの幸福と繁栄を祈るハガキを出すのは結構な慣行だと私も最近まで思っていた。だが、自身の病気や家族の介護といった事情で年賀状を出すのを止めたいと高齢の身内から相談を受けたのをきっかけに、少し考え直すことにした。

 その身内が年賀状を出しづらくなった理由はもうひとつある。長年使ってきたワープロ機が故障したのだ。いまさら高い費用をかけて修理したり、パソコンを買って使い方を一から覚えたりする気がしないと当人が言うのも、至極もっともだ。

 黙って年賀状を止めるのも気が引けるので、何か良い文面を考えて出してほしいと頼まれた。それなら、相手が年賀状を用意する前に知らせたほうがいいと考え、11月までに届けることにした。ところが、いざ書こうと思ってインターネットで検索してみたら、適当な文例が見当たらない。そこで、「心穏やかに過ごしておりますが、寄る年波のため筆を取るのが難しくなりました」と、ごく正直で、当たり障りのない理由を書いた。付き合いそのものを止めるわけではないし、それでも年賀状を送ってこられる分にはもちろんかまわない。

 年賀状が届くのを毎年楽しみにしている人もいるかもしれないが、中にはそれを負担に感じる人もいるだろう。そう考えた私自身も、喪中欠礼のハガキにひとこと「ご家庭のご事情または社会慣習の変化に伴い年末年始の挨拶状を止められる方のご意向を尊重致したく、私どもへの時候のご挨拶はご放念ください」と書き添えた。これを機に、年賀状を止めたい相手が気兼ねなく止められるように水を向けたつもりだ。

 こういうことを書くと、慣習の軽視ではないかと怪訝に思われるかもしれない。しかし、慣習は時代とともに変化する。電子メール、ブログのほか(私自身はあまり使わないが)SNSなど情報伝達手段が多様化している今日、知人への挨拶や近況報告は、必ずしも旧来のやり方にこだわる必要はあるまい。もうほとんど付き合いがない人々にも儀礼的な挨拶状を送り続けねばならないという義務感から解放されたい人への気配りがあってもいいだろう。

(『財界』2014年1月14日号掲載)


※掲載日:2014年1月28日/再掲載日:2015年3月6日
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