An Axis of Conflict 対立軸 (連載第46回)

 アメリカの〔ジョージ・ウォーカー〕ブッシュ大統領〔第43代、2001年〜2009年在職、第41代大統領ジョージ・H・W・ブッシュの子〕がその演説の中で、いわゆるテロ支援国家を批判して言った「悪の枢軸」(the axis of evil)という表現が有名になった。

 この演説を書いた大統領の元スピーチライターとやらがテレビのインタビューで「大統領があの言葉を使ってくれたのはうれしかった」などと得意気に語っていた。かつてスピーチを起草したこともある私には、彼のその気持ちもわかる。だが、正常な言語感覚を持つ私の目から見ると、その表現自体はまったくいただけない。

 その理由は、少し考えてみればわかる。まず、悪の枢軸と名指しされた3カ国は、かつての日独伊のように同盟関係にあるわけでもないから、それらをひとまとめに「枢軸」呼ばわりするのがそもそもおかしい。また、テロリストを支援しているという確たる証拠もないのに、なぜか「悪」だと決めつけている。つまり、この表現は、一方的にレッテルを貼ることによって相手のイメージを貶めようとする作為に満ちた一種の虚構に過ぎない。

 その「悪の枢軸」のひとつとされたイラクのフセイン政権は、圧倒的な軍事力を持つ米英軍によってわずか1ヶ月で打倒された。さすがに「テロ支援国家の撲滅」という理由だけでは国際世論の支持を得られないと思ったのか、米英両国は、大量破壊兵器の査察に応じない独裁政権を打倒してイラクの民衆を解放することを錦の御旗に押し立て、国連の査察がまだ続いているにもかかわらず開戦した。

 その結果はすでにご存じの通りだ。米英軍は百名余りの戦死者を出したが、それよりはるかに多くの―おそらく数千をくだらない―イラクの軍人や民衆が命を落とし、手足を失い、もしくはかけがえのない家族や友人を永遠に失った。

 私自身はもちろん、物事を善悪の二元論(dualism)だけで片付けるほど単純な思考回路の持ち主ではない。だが、もし彼の国の大統領のように世の中を単純に善と悪のふたつに割り切れるなら、国家の論理や都合で無辜の民を殺戮する戦争は、「絶対悪」以外の何物でもないと断言するだろう。たとえ精密誘導弾を使うことで数万人の死者が数千に減ったからといって、戦争を正当化する理由には程遠い。

 今回の結果が、米国による一極支配を容認する諸国の政府とそれに反対する勢力との間で新たな対立軸を生じるのではないかと危惧している。

(『財界』2003年5月27日号掲載)

※掲載日:2003年6月11日/再掲載日:2015年1月3日
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