Mudslinging 泥仕合 (連載第275回)

 〔2012年〕4年に1度の米国大統領選挙が終わって、現職のオバマ大統領が再選された。他所の国の行事なのに、選挙戦の模様を伝えるニュース番組をつい見てしまうのは、良くも悪くも民主主義の先輩として学ぶべき点がある― というより、テレビやインターネットを中心とするあらゆるメディアから草の根運動(grassroots campaign)まで駆使した派手な選挙戦が、傍目にも面白いからかもしれない。

 あえて辛辣に言うと、選挙で候補者が有権者に向けて語る話は、次の3点に集約されよう。(1) バラ色の公約を掲げる、 (2) 自分の実績を自慢する、 (3) 対立政党・候補をけなす。このうち (1)の公約については、マニフェストなどと看板を付け替えてもほとんど実現しないものだと思い知らされた今日の有権者には、いささか受けが悪そうだ。(2)の実績は、昨今の厳しい財政事情や経済情勢も災いして、自慢できるものが実はほとんどない。とすれば、選挙戦はいきおい (3)の中傷攻撃を中心とせざるを得ない。

 何でも今回の米国の選挙全体では、史上空前の60億ドル以上もの選挙資金を集めてテレビ広告などに投入したそうだが、そのほとんどが、相手を中傷するネガティブキャンペーン(negative campaign)、つまり泥仕合(mudslinging、中傷合戦)に使われたという。民主的な選挙が自由な言論による戦いである以上、ある程度はやむを得ないのかもしれないが、けっして民主政治の良いお手本ではない。

 候補者同士のテレビ討論では、意外にもオバマ大統領のほうが精彩を欠いているように映った。雄弁な演説家として名高い彼も、直接討論はそれほど強くないのかもしれない。第3回の最終討論では、米海軍の軍艦の数が減っていると現政権の政策を批判していた共和党のロムニー候補に対して、オバマ大統領が "We also have fewer horses and bayonets"(馬と銃剣だって昔より少ない)と揶揄したことから、horses and bayonets(馬と銃剣)という言葉が視聴者の関心を呼んだと伝えられたが、その言葉の使い方に出来の良さは感じられない。

 それでも、オバマ氏はさすがに、いったん演壇(podium)の前に立つとひときわ輝きを放つ。勝利演説で米国民に改めて融和と団結を訴えた彼の姿は、高潔な指導者のそれであった。このあたりに、海千山千の政治家との格の違いが見て取れる。

 悪口雑言を次々と吐きまくり、口げんかにやたらと強い候補者が、必ずしも優れた政治指導者であるとは限らない。その意味でも、今回の米国の選挙には、民主政治について改めて考えさせられるところがあった。

(『財界』2013年1月1日号掲載)


※掲載日:2012年12月18日/再掲載日:2015年3月3日
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