Accidents will happen 事故は起こるものだ (連載第273回)

 たしか高校生のときに使っていた英文法の教科書か参考書だったかに、Accidents will happen.(事故は起こるものだ)という英語の箴言が出ていた。まだ人生経験が少なかった当時の私にはさほど実感はなかったが、年を経るごとに、私たちの生活は事故と背中合わせだと思うようになった。

 最近特に強く感じるのは、交通事故(traffic accident)の危険だ。今は法律で禁止されているにもかかわらず、携帯電話をかけながら自動車や自転車を運転している輩が後を絶たない。青信号の横断歩道にも突っ込んでくる。私は実際、この手合いにぶつけられそうになったことがある。

 夜間の自転車の無灯火走行(cycling/biking without lights)はひところよりは減ったが、今でも日没後にすれ違う自転車の4,5台に1台くらいはライトを点けていない。市街地では街灯が明るいので点灯不要と思ってしまうのだろうか。携帯電話で話しながら無灯火でふらふら走っている自転車もある。もっとひどいのになると、無灯火の自転車の前後に幼児を乗せて携帯電話でゲームをしながら走っている母親を見かけたこともあった。ここまで来ると、事故に遭わないほうが不思議なくらいだ。

 この種の危険な自転車から身を守るために、私は夜間歩くときも懐中電灯(flashlight)を携行している。さらに、無灯火の自転車とすれ違うと大声で注意する。他人とはあまり関わりたくない性分なので以前は看過していたが、事故の多発に鑑み、あえて声をあげることにした。危険な自転車が近所に蔓延すると、いつ自分自身や家族に危害が及ぶかもしれない。

 違法走行をひとこと注意すると、この国の善良な市民はたいてい素直に従ってくれるが、中には睨み返してくる者もいる。私は何も喧嘩をふっかけるつもりで注意するわけではないので、相手が不穏な態度に出たら全速で逃げる。事故を防ごうとして別な危険が身に及んでは元も子もない。かかる不逞の輩は自らの浅慮が招いた事故で悲惨な目に遭うかもしれないが、そこまでは私の知ったことではない。

 それでも私は、違法走行を注意することをやめるつもりはない。危険の存在に気づいた誰かが行動しなければ、事故が起こる可能性はそれだけ高まる。自分は関係者ではないからとか、関わりたくないと思って見て見ぬふりをすれば、いつかは事故が起こる。交通事故のような身近な災難に限った話ではない。工場災害や原発事故などについても同じことだ。

 日本は世界一安全な国だという誤った思い込みは遠い過去のものだ。事故はいつ、どこでも起こりうる。

(『財界』2012年11月13日号掲載)


※掲載日:2012年11月13日/再掲載日:2015年3月2日
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