Territorial dispute 領土紛争 (連載第270回)

 国境が往々にして戦争または不法占拠の結果として左右される以上、領土をめぐるいざこざ(territorial dispute)は、有史以来つねに世界のどこかで起こっている。

 友好国であるはずの隣国の、よりによって元首ともあろう人物が先日〔2012年〕、何を取り乱したか突然、領土をめぐる問題で日本国に対して非礼かつ挑発的な行動(provocative action)に出てきたことには、国民のひとりとして驚きを禁じ得ないが、それに感情論で応酬しても始まらない。領土問題は数十年、ことによると世紀を超えて、平和的な手段で解決するしかない。

 誰も住んでいない絶海の孤島の支配権をめぐって武力行使を示唆する暴論も海外にはあるようだが、それは今日の国際社会では特に、下策中の下策であることは論を待たない。1982年に英国とアルゼンチンの間で起こったフォークランド紛争では、軍人に多くの犠牲者が出た。武力による威嚇または武力行使の放棄を国是としているこの国においては、そのような選択肢はもとよりあり得ない。

 挑発行動に対して挑発行動で応じるのも下策であろう。特に政治家の方々には、微妙な時期にあっては不用意な言動に出ないようにお願いしたい。隣国との関係がこのまま悪化すれば、民間レベルで培ってきた信頼関係や友好関係が次々と水泡に帰していくおそれもある。

 わが領土への不法侵入を試みる過激派とおぼしき輩まで現れたが、それに対しては断固として、粛々と排除しなければならない。その点、この国の海上保安庁および警察関係者の処置は見事だった。誰一人として傷つけることなく、巧みな作戦で侵入者を迅速に捕えてくれた。法に照らせば重大な犯罪者であるはずの彼らを強制退去処分としたことについては異論もあるようだが、今回はそれでよかったと私は思う。刑事法上の理屈はともかく、現実的に考えれば、あのような連中をいちいち起訴して数ヵ月かそこら収監したところで問題解決につながるわけでもないし、支持者の逆恨みを買うだけだろう。

 すぐに退去させられた不法侵入者のいかにも犯罪者らしい面構えをニュース映像で見た私は、『三国志』で読んだ七縦七禽(しちしょうしちきん)という故事を思い出した。蜀の軍師・丞相であった諸葛亮孔明が南蛮王孟獲を捕えては逃がし、七度目についに孔明に心服した孟獲は蜀に帰順したという。現代社会ではそれほど悠長なことはやっていられないかもしれないが、この故事の精神には、今日でも学ぶべき点がありそうだ。

 世界中の良識ある人々なら、武力による威嚇や政治家の挑発的な言動に踊らされることなく地道な努力を重ねるこの国に一目置くだろう。

(『財界』2012年10月2日号掲載)


※掲載日:2012年10月16日/再掲載日:2015年3月1日
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