Bird's eye view 鳥瞰 (連載第267回)

 新しいものを導入するのが人一倍遅い私がグーグルアース(Google Earth)を初めて使ったのは、今年に入ってからだった。このサービスが始まった数年前、私が持っていた古いパソコンでは性能が低すぎて利用できなかったが、CPUの速度もシステムメモリも大幅に向上した今のパソコンならサクサク動く。

 このグーグルアースで見られる地上の画像は、単に衛星写真をつなぎ合わせたようなものかと思っていたら、実際に使ってみて、その認識が誤っていたことがわかった。世界のどこでも、あらゆる高度・方向・角度からの鳥瞰(bird's eye view)が自在に楽しめる。高い建物や観光名所などはポリゴン(polygon)で3D(立体)化されている。まさに究極の地球儀である。

 これを使うと、たとえば、最近よく話題に上る東京スカイツリーが、どの場所からどの方角にどう見えるかが手に取るようにわかる。逆に展望台の高さから見た地上の景色もシミュレートすることができる。東京スカイツリーの近くに行ったことさえない私も、それだけで見物した気分になれた。

 実家でグーグルアースを使い始めた私は、それで生まれ故郷の街に降り立つと、画面をグーグルストリートビュー(Google Street View)に切り替えた。このサービスが始まった当時、これで見られるのは一部の大都市だけだったが、すでに地方の中小都市の細い路地まで撮影済みらしい。それを使って見た故郷の街並みは、私が幼少時代を過ごした当時の姿とはかなり変わっていたが、私たち家族が住んでいた家はまだあった。あの頃は元気で何でもこなした父が手作りで建てた車庫も、昔のまま佇んでいた。母に見せたら、その頃の思い出話に花が咲いた。

 東京に戻った私は、これで家内を、海外のとある思い出の場所に連れて行った。昔とほとんど変わらぬ懐かしい景色を見た家内は思いのほか喜んだ。ここ数年は夫婦で旅行もしていない私には、実に重宝な道具だ。これを使えば、たとえば病床にあって外出できない人でも、自分の家にいながら世界中を探検して回ることができる。

 グーグルストリートビューのサービス提供が始まった当時、道路から写した人家の画像がプライバシーの侵害だと問題視する声もあった。グーグルアースについても、軍事基地など安全を要する施設まで見えてしまうことを危惧する見方もあるようだ。

 それでも、このようなサービスは、人類に大きな恩恵をもたらしているに違いない。最初からこれらを使って地理を学ぶ若い世代は、世界に対する三次元的な視野を持てるようになるだろう。実にすばらしいことだ。

(『財界』2012年8月21日号掲載)


※掲載日:2012年8月21日/再掲載日:2015年2月27日
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