Japan Sinks 日本沈没 (連載第245回)

 〔2011年〕7月に亡くなったSF作家、小松左京氏の小説『日本沈没』は、1970年代に数百万部のベストセラーになった。その当時中学生だった私以上の世代なら、テレビドラマや映画にもなったこの大作を知らない人はほとんどいないだろう。

 巨大な地殻変動によって日本列島が沈没するというその物語は、単なるSF(science fiction=空想科学小説、ただし英語ではsci-fi [サイファイ]と略す)の域を超えて、自分たちが住む国土を失おうとしている日本人がどう生き残るべきかを問いかける一種の文明論でもあった。大地震で崩壊した都市や山河が水没していく恐ろしい場面をドラマや映画で何度も見たが、本当に日本が沈むような地殻変動は、少なくとも私たちの時代には起こらないなどと、当時誰かが説明していたように記憶している。

 実は、〔2011年〕3月11日に大震災が起こるまで、私はそのこともすっかり忘れていた。しかし、マグニチュード9.0という未曾有の巨大地震が引き起こした大津波が港や住宅地や田畑に押し寄せる映像をテレビで見て、さらに、水素爆発を起こした原発が放射性物質を広く撒き散らしたと聞くに及んで、あの物語はけっして荒唐無稽な絵空事ではないと思った。あれは私たち日本人に向けた警世の書であった。

 今年は大震災に続いて、東北地方を襲った大雨が水力発電所に打撃を与えた。他の地域でも原発を再稼働できない状態が続いており、電力危機は予断を許さない。福島第一原発事故の収束に向けた作業には莫大な時間とコストがかかりそうだ。

 今日の日本を取り巻く危機的状況は、これらの天災や人災に留まらない。世界的な経済危機と史上空前の円高は、この国の輸出産業に深刻な打撃を与えている。中途半端な補助金くらいでは、産業の空洞化の進行を食い止めることはできまい。領土や資源をめぐる隣国との緊張関係もいまだ解消していない。

 このような国の危機に直面しながら、国会は首相の進退をめぐって延々と揉め続け、政府の意思決定は遅々として進んでいないように見える。

 今のこの国に必要なのは、国民を鼓舞して自ら気概を示せるリーダーである。新しく首相になる人は、私たち国民と危機感を共有し、陣頭に立って被災地の復興と産業の振興に力を尽くしてくれるだろうか。

 このまま何も手を打たないと、日本は本当に「沈没」しかねない。

(『財界』2011年9月20日号掲載)


※掲載日:2011年9月20日/再掲載日:2015年2月22日
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