Smooth transition スムーズな移行 (連載第244回)

 被災地の東北3県を除いてこの国のアナログテレビ放送は〔2011年〕7月24日正午に終了したが、その翌日までに総務省などに寄せられた「問い合わせ」は累計で22万件を超えたという。中にはアナログ放送の終了に対する苦情もあったようだ。

 この数を多いと見るか少ないと見るかはともかく、当局や放送局にわざわざ電話をかけて聞く人なんか、視聴者全体からするとごく一部に過ぎないはずだ。周囲の人に聞いたか、または誰に何を聞いたらいいかさえわからずに戸惑った高齢者が、その何倍もいたことは想像に難くない。

 私の実家では去年、地デジテレビに買い替えた。それでも、アナログ放送終了の翌日、母が「アナログ放送もまだ映っている」と不思議そうに電話してきた。CATVが入っているマンションではデジアナ変換による配信が続けられることを知らなかったのだろう。総務省からCATV各社に対してデジアナ変換を2015年3月末まで続けるように要請したおかげだが、テレビ局やCATV会社は、その事実を視聴者に周知させる努力をしたのだろうか。少なくとも私自身は、彼らからは聞いていない。

 一部の低所得世帯には、(米国ではDTV converter [box] などと呼ばれている)地デジチューナーを無償で配布したそうだ。だが、それ以外の一般視聴者がアンテナで直接受信しているアナログテレビを引き続き使いたかったら、自腹で買うしかない。UHFアンテナがない世帯はそれも必要になる。報道によると、アナログ放送の終了とともに地デジチューナーが品切れした店が続出したらしい。CATV側でデジアナ変換することを知らずに、あわてて買いに走った人もいるのではないだろうか。

 アナログ放送の終了と同時に、それまでワイドバンドFMラジオで受信できた一部のテレビ放送の音声も途絶えた。視覚障害者や高齢者の愛用者は、少なからずいたはずだ。ワンセグテレビを使えばいいという考えもあるだろうが、誰もがワンセグ受信機(携帯電話)を持っているわけではないし、使い慣れたラジオで聞けなくなったら不便には違いない。

 当局や放送業界の一部には、アナログ放送の終了をスムーズな移行だと自画自賛する声もあるようだが、視聴者の視点でもそういえるだろうか。もしスムーズに移行できたとしたら、それはこの国の寛容な消費者の忍従の賜物だと思ってほしい。

(『財界』2011年9月6日号掲載)


※掲載日:2011年9月20日/再掲載日:2015年2月21日
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