One percent inspiration and… 1%のひらめきと… (連載第34回)

 今年〔2002年〕は、小柴昌俊・東大名誉教授がノーベル物理学賞(The Nobel Prize in Physics)に輝いたのに続いて、化学賞(The Nobel Prize in Chemistry)に島津製作所の田中耕一氏が選ばれた。ともに惜しみない賛辞と敬意を表したい。

 記者会見の席上、田中氏が、自分の発見は偶然の失敗による成果であるかのように言いながら、好きな言葉は「1%のひらめきと99%の汗(one percent inspiration and ninety-nine percent perspiration)」とさりげなく答えていたのには、どこか奥ゆかしさのようなものを感じてしまった。

 この有名な言葉は、電球や蓄音機を発明したあのエジソン(Thomas Alva Edison, 1847〜1931)が言ったものらしい。inspirationとperspirationで韻を踏ませているようだ。これについて、「(天才を作るものは)1%のひらめきと99%の汗(または努力)である」という日本語訳が広く定着しているが、押韻の面白さを生かすなら、「1%の直感と99%の発汗」と訳したほうがいいかもしれない。

 最初は思いつきから始まった発明が実用に至るまでには、人に見えない膨大な努力の積み重ねがある。物理学賞を受けた小柴氏にしても、ニュートリノを実際に計測するスーパーカミオカンデの建設実現のために奔走したという。

 企業に勤めるエンジニアで、博士とか教授という肩書さえ持たない大学卒の田中氏がノーベル賞を受賞したのは、正直驚いた。世界で最も権威の高いこの賞が、所属団体や年功、肩書といった要素に左右されることなく、発見の実証や発明の実現に向けて汗水流して努力した真に貢献度の高い人を讃え続けてきたからこそ、その普遍的な価値が認められているのだろう。

 それほどの賞である以上、国をあげて喜ぶのは大いに結構なことだ。ただ、授賞が報道された直後に「○○栄誉賞」だの、「名誉○○」だのを贈呈しまくる一部の風潮はいかがなものか。世界で最高の権威ある賞の授賞が決まるや、後から取ってつけたようにずっと格下の賞を出すというやり方は、いささか失礼ではないか。

 そうでなくても、ノーベル賞の受賞者は忙殺される。あまり関係ない人や団体は陰でそっと喜んであげるのが受賞者に対する気遣いだと思うのは、どんな賞にも縁遠いアマノジャクな私だけだろうか。

(『財界』2002年11月19日号掲載)

※掲載日:2002年12月4日/再掲載日:2015年1月2日
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