わが故郷北海道から伝え聞くところでは、各地で長年愛されてきた地元の百貨店やスーパーマーケットの閉店、廃業が相次いでいるという。北海道の地域経済を支えてきた観光業も、観光客やスキー客の減少に悩まされているらしい。窮地に陥った地元企業の中には、新たな顧客層の開拓や付加価値商品の開発に向けて頑張っているところもある。あるスキー場では、外国人客の誘致に力を入れており、別のスキー場では、子ども連れの家族が楽しめるように託児施設や子ども向けのイベントを設けているそうだ。ちょっとしたアイデアや工夫が、集客力の向上に結びつくこともあるだろう。
ところで、自宅で仕事をしている私がこのような地方の情報に触れるには、ほとんどの場合、インターネットか風の便りに聞くしかない。残念なことに、中央のマスメディアの多くは、地方発の情報を軽んじている。東京のテレビ局が制作した万人受けする娯楽番組を一方的に垂れ流していればよかった時代は、すでに終わりつつあるというのに。
実際、全国紙やテレビ放送のような総花的なマスメディアは衰退の兆しを見せている。どうせジリ貧なら、いっそのこと、私のような地方出身者や高齢者などのターゲットに特化した(focused on target)編成に一新してはいかがだろうか。
新聞なら、ローカルな話題をふんだんに盛り込んだ地方版の紙面を、自分の出身地や興味に応じて、アラカルトで選べるようにできないものか。そんじょそこらに転がっている全国ニュースやスキャンダル記事の類ならいらないが、東京にいながら故郷や各地の様々な記事を読めるのであれば、購読する気になるかもしれない。
地上デジタルテレビ放送(地デジ)では、マルチ編成(multiple program broadcasting, multicasting)といって、ひとつのチャンネルを使って複数の標準画質(SDTV)の番組を同時に並行して放送できるのだとか。それなら、地方で制作した番組を、そのマルチ編成とやらでどんどん流してほしい。多数のチャンネルと全国の支局網を持つNHKなら、簡単にできるのではないか。そうすることによって、私のようにテレビ離れを起こしている視聴者にも、地デジ化に対応する利点が見えてくるだろう。
もしかしたら、この国の未来を救う知恵や発想が、地方にはまだ埋もれているかもしれない。
(『財界』2010年3月9日号掲載)