Policy flip-flop 政策のぶれ (連載第198回)

 〔2009年衆議員議員〕総選挙の最中、当時の首相がまた何やら失言したと報道されていた。政治家の失言については、この連載でも何度か書いたし、いまさらその話をここで取り上げるつもりはない。この原稿が掲載されるころには、新政権が発足していて、その失言も遠い過去の話になっているだろう。

 この国が政権交代に向かって動いているという予測は、選挙前からすでに、国内だけでなく海外にも報道されていた。かの首相の失言もa verbal gaffeとかa slip of the tongueという英語で伝えられたが、あの段階で失言のひとつやふたつあろうがなかろうが、大勢に影響を与えることはなかっただろう。

 政権交代の原因を考えるに、最大の要因は非常に大きな政策のぶれ(policy flip-flop)にあった。賢明な有権者諸氏の懸念は、おそらく旧与党が考えていたよりもずっと根深いものだった。

 かつて郵政民営化を巡る総選挙で衆議院の3分の2以上の圧倒的多数の議席を与えられた旧与党は、その後、選挙もやらないままずるずると3人も首相が交代するうちに、少し前に党の方針に反対して放逐された代議士の復党や入閣は許すわ、首相は首相で「私は郵政民営化には反対だった」などと言い出すわで、政策の一貫性(consistency in policy)がまるで感じられなかった。国民に十分な説明もないまま方針が一転したように私には見えた。あの体たらくでは、総選挙で国民の信を得られなかったのも無理はない。

 リーダーにはもちろん、状況に応じて臨機応変に政策や人事を変更するだけの柔軟性や決断力が求められる。しかし、何のために、何をしようとしているという自覚や信念がなければ、またはそれがないように見えるだけで、人はついてこない。

 この国の将来を憂う有権者の多くは、複雑な思いを胸に総選挙に臨んだことだろう。過去数年間の政治の迷走は、民主政治で選ばれる与党やそのリーダーのあり方について考える良い機会になったかもしれない。それにしても、民主主義が本当の意味で定着するまでには、かくも紆余曲折を経なければならないものか。

 国難の中で政権を担う新与党は大変だろうが、国民の信頼を受けられるような、芯の通ったリーダーシップを期待したい。

(『財界』2009年10月13日号掲載)


※掲載日:2009年10月26日/再掲載日:2015年2月8日
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