This is your victory! 皆さんの勝利です! (連載第179回)

 米国の大統領選挙〔2008年〕に勝利して次期大統領となったバラク・オバマ候補が開票当日の深夜、数万人の観衆を前にシカゴで行った勝利演説を改めてじっくり聴いてみた。私のように英語を母国語としない者でさえ引き込まれそうになる名調子はさすがだ。

 リンカーン大統領の有名な演説の一節を引いたこと自体は珍しくないが、うまいのはその使い方だ。彼の選挙運動を支えたボランティアや少額の募金者の功を称え、「2世紀以上を経て『人民の、人民による、人民のための政府が、この地上から消えなかった』ことを証明してくれた」(〜proved more than two centuries later that a government of the people, by the people, for the people, has not perished from the Earth.")と持ち上げてから、力強く"This is your victory!"(これは皆さんの勝利です)と付け加えた。彼に心酔し支持してきた有権者にとっては、最高の泣かせどころだったに違いない。

 最後に、この選挙で一票を投じた106歳の黒人女性に言及し、その彼女が目にしてきた米国の歴史を振り返りながら、公民権運動の時代によく歌われた "We shall overcome"(我ら打ち勝たん)というあの有名なフレーズも交えつつ、すっかり合言葉となった"Yes, we can! "(私たちにはできる!)を繰り返していく。長く虐げられてきた黒人の溜飲を大いに下げながら、すべての米国人に祖国への誇りと共感を抱かせる実に見事な演説だ。

 オバマ氏は美声の持ち主である上に、発声のリズムが実に心地よく響く。天賦の才が成せる業か、幼少期から受けてきた教育がよほど良かったのだろう。

 考えてみたら、米国史上初の「黒人」大統領になるといっても、オバマ氏の場合、母親は白人で父親はケニア人だからその先祖は奴隷ではないし、1961年生まれの彼には自ら公民権運動で盛り上がった思い出もないだろう。その彼が、米国の重い歴史を背負い、年長の有権者を涙させる演説ができるのだから、これはたいしたものだ。そのような逸材を指導者に選べる民主政体がうらやましくもなる。

 数々の難題を抱える米国の新指導者として、この先は大きな困難が待ち受けていると思うが、類稀なカリスマ性と世界の熱い期待に支えられたリーダーシップに注目していきたい。

(『財界』2009年1月6日号掲載)


※掲載日:2008年12月16日/再掲載日:2015年2月4日
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