That one あいつ (連載第177回)

 〔2008年〕9月下旬から10月にかけて、米国の大統領選挙の候補者同士によるテレビ討論があった。3回にわたるこの討論会ではそれほど派手な論戦はなかったようだが、その中で、共和党のマケイン候補が迂闊に放った "That one."の一言がサウンドバイト(sound bite、2005年9月20日号掲載 [第102回]参照)となって広く伝わり、後味の悪い印象を残してしまったようだ。

 10月7日に行われた第2回の討論の最中、会場の聴衆に向かって話していたマケイン候補が、民主党のオバマ候補を指差しながら、(あの法案に賛成したのは)"That one"(「あいつ」)と言ってしまったのである。

 その場面を見た視聴者からは、マケイン候補は相手の名前を忘れてしまったのかとか、オバマ候補を卑しめる嫌な表現だという厳しい批評が次々とネット上に投稿されている。

 英語では、本人が同席している場でその人を三人称(heやshe)で呼ぶのは失礼にあたる(日本語でもそうだろう)。まして、人だけではなく物にも使えるthat oneという言葉は、そう呼ばれた相手が黒人というマイノリティー(minority)だけに、聞く人によってはかなり侮蔑的な表現と受け取ったかもしれない。

 大統領の座を争う対立候補(opponent)同士であっても、互いに敬意をもって接するのが常道である。この場合は両候補とも上院議員という要職にあるのだから、互いに相手を "Senator [Obama/McCain]"([オバマ/マケイン]上院議員)と呼ぶべきところだ。

 その少し前に行われた副大統領候補同士の討論では、年長のバイデン候補が女性のペイリン候補に対する中傷的な攻撃を避けたようだ。現時点では、不用意な失言や不遜な態度が出ていないオバマ・バイデン陣営がやや優勢だろうか。マケイン・ペイリン陣営はネガティブキャンペーンを強化しているそうだが、それも裏目に出て有権者の反感を買っているらしい。

 1960年、ケネディ対ニクソンという名勝負に始まった米国大統領候補同士のテレビ討論は、インターネットが著しく普及した今日、候補者の片言隻句、一挙手一投足が大衆によって厳しく評価されるという形で、ますます大きな影響を及ぼしているようだ。

 11月4日に投票日を迎える大統領選挙の結果に注目したい。

(『財界』2008年11月18日号掲載)


※掲載日:2008年10月21日/再掲載日:2015年2月3日
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