送信所全景 苫小牧市には中波帯の送信所が3局あります。千歳市から最も近い場所で道央道沿いにある鉄塔が、札幌テレビ放送苫小牧ラジオ(JOWF:1440kHz、1kW)の送信所です。苫小牧局(と室蘭局)は札幌局と同じ周波数で送信されています。同じ番組を同じ周波数で送信しているので例えば札幌から室蘭まで車とかで移動した場合、ダイヤルを変更することなく適当な感度で受信し続けることが出来そうです。これは精密同一周波放送(同期放送)によるもです。

 STVの札幌ラジオ送信所は江別市にあります。札幌局の鉄塔(これ)はストレートタイプの素直なのものでしたが、ここの局は鉄塔の周りに6本のワイヤーがあります。鉄塔の高さは目測4〜50mであったので特段鉄塔高をはしょるため(例えば塔頂のわっかとか)ではないと思います(1440kHzの1/4λ≒52m)。それでは何のために鉄塔に沿って6本のワイヤを張っているのでしょうか?調べてみます…



札幌テレビ放送

○ STVラジオは、こっちが早くていいです。
○ ラジオの周波数ならこっちが更に早くていいと思います。




給電部 このアンテナの基部を左図に示します。基部が直接コンクリートの基台に乗っており、良く見かける碍子がありませんでした。中波送信アンテナの大分類で基部接地形と称されるものだそうです。この構造のものは接地鉄塔を励振させるため基部の絶縁碍子が不要でその分機械的強度の向上につながる、雷害対策に有効、航空障害灯への給電が容易(オースチントランス不要)などの利点があります。ものの本(*)では最近良く利用される、との記述がありますがいまのところこの局と山梨放送(これ)でしか見てません。

 中波送信アンテナの励振方法として、直列励振と並列励振があります。前者は基部絶縁鉄塔、後者は左図の様な基部接地鉄塔の場合です。鉄塔へ並列に給電する方式で、そのためのワイヤーが鉄塔の周りに張られていました。このワイヤーをダウンリードと称し、この本数によってアンテナの特性インピーダンスが変化するそうです。鉄塔に対してダウンリード1本で400Ω超過、5〜20本で100Ω〜50Ωの間に追い込めるらしいです。

撮影 2005.01.08 15時23分

白い絨毯敷きの局舎 局舎には「STV」のロゴがさりげなく掲示してありました。送信所の位置は道央道沿いで近隣にゴルフ場がありますが、冬季はゴルフ場は閉鎖されてますので非常にひっそりしています。しかしながらこの送信所まで及びその先(林道みたい)まで除雪はされていました。未舗装道路ですので、却って冬季(降雪時期)の方が快適に走行できました(あちらに居た時分)。

 局舎にはUHFテレビのアンテナの様なものが一つ設置されているだけでした。本局からのプログラムは有線(電話回線)伝送だと思いますが、札幌・室蘭との送信周波数の同期はいかなる方式で実行されているのか?とはたと思ったりします。苫小牧の送信所は市街地から外れたひっそりとした場所にありましたが、今日も黙々と送信していることと思います。

撮影 2005.01.08 15時24分


■ 同期放送

 同期放送を行う放送局の周波数について「相互に同期放送の関係にある放送局は、同時に同一番組を放送するものであって、相互に同期放送の関係にある放送局の搬送周波数の差が0.1Hzを越えて変わらないものであること。」との規定があります。同期放送の種類として搬送波周波数を完全に一致させる完全同一周波放送とごく僅かずらしておく精密同一周波放送の2種類があるとのことです。後者の「ごく僅か」という表現が上記の0.1Hzを越えて変わらない…という部分で、国内の中波放送は精密同一周波放送の方式がとられているそうです。

 2箇所から同一周波数で送信するとどこかで各局からの受信電界が同じになる場所があります。同じ出力・同じ空中線で周囲を完全に平地とすれば両局の中間地点がそうなると思います。実際には(札幌50kW、苫小牧1kWの様に)出力が異なりますし、江別周辺と苫小牧周辺では地形なども異なるのでかなり不規則に存在すると思いますが、それでもどこかに同じ電界の場所が存在します。この場所を同期局間の電界がほぼ等しくなる場所として等電界地帯と称します。同期局間の電界が3dB以内の場所を等電界地帯と定義しています。なお、この値は地表波対地表波の場合であって、地表波対空間波の場合は8dB以内の場所となります。

 この等電界地帯では両局の搬送波周波数の差のビートが生じ、その差(0.1Hzであれば10秒)の時間間隔でフェージングが生じます。その結果、搬送波合成電界が零ないしはそれに近い値まで落ち込み、受信機側では搬送波抑圧をされたのと同じことになります。搬送波抑圧波は通常の中波受信機では対処できません(モガモガ…って感じに聞こえる?)。もちろんこれが継続されるのではなく、ある周期で繰り返されることになると思います。

 置局の際に等電界地帯を人里離れた場所になるようにする様にするのも一案ですが、その様な場所がいつ何時宅地開発されるかわからないし、夜間の中波伝播特性により遠距離の大電力局がかぶってくることもあります。この場合は同期放送とは異なり単なる混信ですが、両局の電界強度が3dB以内になってしまえば搬送波の打ち消しが生じ受信状況が劣化することになります。そこで受信側で改善するとすれば、AGCの特性をできるだけ低入力から動作する様に調整する・受信局の搬送波と同じ別の搬送波を注入して検波(同期検波)を行う・バーアンテナの特性を利用して両局の電界強度に(3〜8dB以上)差が出るようにする等の方法があります。手軽に実行できる方法は3つめの中波ラジオの向きをいじって改善してみることでしょうが、同一方向から到達する場合は対処できません…

 同期放送における両局間の周波数の問題は発振器の高精度化(独立同期)や中継回線経由の従属同期などで解決できるとのことですが、等電界地帯の問題は回避できずある程度のサービス低下地域が発生する様です。しかしながら車などで受信する(聞く)時にサービスエリア内でダイヤルを変えることなく継続受信できる点はそれを補えるものであると思います。また新規に中継局を設置する際に空き周波数がない場合には既存局との同一周波放送を実施することで…と考えていましたが、現状中波局の増設はあるのかとも考えてしまいます。


(*)放送アンテナと電波伝搬 日本放送協会編(昭和58年4月20日 第1刷 ISBN4-14-071039-X)
その他の参考図書 放送技術ポケットブック 郵政省電波監理局放送部技術課編(昭和58年3月31日 ISBN4-8076-0109-1)


初稿 2002.04.14
追記 2005.03.23(下2枚写真追加、文章表現訂正等)
訂正 2006.09.18(リンク先訂正、雑記追記)
訂正 2010.06.30(誤記訂正・雑記追記)
訂正 2014.08.25(誤記訂正)

ひとつもどります