陸上移動体通信は送信点から不定の方位に受信点がある場合(例:放送)、ないしは移動体自身がどこに動くかわからない場合(例:携帯電話)は、無指向性アンテナを設置するか指向性アンテナを複数の方位に向けて設置し無指向性相当の状態にし、移動体への/からの電波を送受信する場合が多いです。

 一方鉄道など移動体の軌道が定まっていればその領域のみをサービスエリアにすれば事足ります。また高速道路で時々サービスエリアになる路側ラジオも自動車相手の放送ですが、これも軌道が定まっている状態です。このため列車無線は指向性の強いアンテナを使用したり、線路沿いに漏洩同軸ケーブルを布線したり軌道内に給電線を走らせたいわゆる誘導無線方式などがあります。漏洩同軸(LCX)方式は新幹線、誘導無線方式は地下鉄などが利用しているそうですが、どちらもその設備をそうやすやすと見ることができません(高速の路側ラジオのアンテナも然りです…中央分離帯に設置してあるみたいですが)。ここでは駅で容易に見ることのできる八木宇田アンテナを貼ってみました。


上越線岩本駅 利根川沿いの山間にある駅のものです。アンテナは北方向、沼田市街地の方を向いて設置されています。8素子の、比較的良く見る形状です。放射器(左側から2本目)は折り返し形式になっています。詳細な周波数はわかりませんが、UHF帯の下側だそうなので波長λは1m弱となり、それぞれの素子の長さはおおよそ40cm程度となります。素子間の間隔はおおよそλ/4となるそうですが、結構互い違いの間隔になっているのが観察されます。

 八木宇田アンテナは素子数が増えて行くと利得も上昇します。一般に8素子の場合はおおよそ12dBくらいの様です。また電力半値幅(アンテナを回転させ、アンテナ正面で測定した電界強度が1/2になる角度の範囲。この値が小さいほど指向性の強いアンテナとなります)は40度くらいです。

JR上越線 岩本駅 2004.09.12 お昼頃

上越線土合駅 湯檜曽川沿いの、谷川岳麓にある駅のものです。このアンテナは湯檜曽駅方向を向いて設置してありました。(構図的に見難くなって申し訳ありませんが)上図のものと同じ8素子ですが、放射器前後の素子に特徴があります。それぞれの素子が太い棒状になっています。これは雪害対策が採られている様です。また太い素子以外の素子の固定もブラケット金具を使用し、着雪して着雪荷重によって生ずる機械的破損を回避する様です。

 雪は氷・水・空気からなる混合誘電体となり、含水率や雪密度の差異によりアンテナの電気的特性に影響を与える様です。例えばアンテナの素子に着雪した場合、素子が等価的に長くなりこの場合使用周波数が低い方に移動します。

 この傾向は周波数が高く、着雪量が多いほど大きくなる様で(実験上では着雪量によっては指向方向がひっくり返る模様)これを回避するために着雪により移動する周波数を見越してこの移動幅内に目的周波数が収まるよう広帯域化する、着雪の影響が最も大きな第1導波素子(奥から3本目)にカバーをつけ着雪による周波数移動幅を小さくする、これらの併用をする等の仕掛けをする様です(この様なものを耐雪アンテナと称する様です)。

 この形状のアンテナは北海道にいた頃は結構見かけました。国境の長いトンネルの南側ではありますが、この駅のある水上町はスキー場が多数あるためこっち側も雪国には変わりないと思います。ただ、こちらは北海道の雪質と異なり含水率が大きい、いわゆるベタ雪でしょうから雪により変化する電気的特性も多少は異なるのではないでしょうか?それよりも着雪荷重の影響が大きいと思います。

JR上越線 土合駅(上り;地上) 2004.09.12 14時頃




参考図書 放送アンテナと電波伝搬(放送技術双書 日本放送出版協会)


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