全景 新千歳空港の近くに居ると対空通信設備を見かけることが多かったです。左の設備は空港内(滑走路脇)に設置されるグライドパスと言われるもので、計器着陸装置(ILS;Instrument Landing System)の一つです。

 ILSの地上施設はローカライザ、グライドパスそしてマーカの3つの装置から成ります。グライドパス(Glide Path)は滑走路に対して垂直面内の降下路を誘導するための装置とあり、滑走路端から内側に約300m、滑走路中心線から直角方向に約120mの位置にアンテナが設置されます。

 左図の場合、左手の方向が南千歳駅(南風の場合の進入方向)となります。北海道エアシステムの小型機が見えてますが、ちょうど着陸するところです。また画面奥の方の山にマイクロ中継局の鉄塔が見えますが、これらが早来のコロイ山にあるNTTや道開発局のものです。

 グライドパス装置の周波数は328.6〜335.4MHzの帯域で水平偏波とのこと。アンテナハンドブックによるとナルリファレンス方式、Mアレー方式の2種類ほどあるそうです。前者はアンテナが2つ、後者は地表面から突き出した障害物からのマルチパス波によってグライドパスが乱されるのを防ぐためパス下側の垂直面内のパターンを弱める目的でもう1つアンテナを追加した、計3つのものです。アンテナとしてはコーナレフレクタ付ダイポールとあります。レドームの中に入っているみたいですが、このレドーム単なる雪よけなのか、それともMアレー方式とは異なる別のものかはわかりません…



 無線工学Bの問題を見ることがあるのですが、このアンテナを題材にしたものが時々目に付きます。なんか工学Aの方にも顔を出したりしていますが…例えば平成11年7月期の工学A(A-16)に「次の記述は、航空機の航行援助に用いられる計器着陸装置(ILS)について述べたものである。このうち誤っているものを下の番号から選べ。」とあり、選択肢が5つあります。その5番目に、

 グライドパスは滑走路の着陸点付近で、かつ、側方に設置され、滑走路に進入及び 着陸する航空機に対して5度から10度までの範囲内に適当な仰角の降下面を与えるものであり、 航空機の降下路の下側に90ヘルツ、上側に150ヘルツの低周波信号で変調したUHF電波を放射する送信施設である。

というのがありました。誤っているものとしてこれを選ぶそうなのですが、その判断材料が航空機に対して2度から3度までの範囲内という点と下側に150ヘルツ上側に90ヘルツの低周波信号という点でした。その後今度は工学Bでアンテナのことが出題されてました。平成12年7月期B-3を引用すると以下の様になります。

 グライドパス用のアンテナはヌルリファレンス形の場合、直接波と大地反射波の合成波を 利用するために2個又は3個の「コーナレフレクタ」アンテナを垂直方向に配列した ものであり、滑走路の延長線上で進入端より300メートル、滑走路の横方向に120〜150メートル それぞれ離れた点に設置されている。「コーナレフレクタ」アンテナからの直接波と 大地反射波との合成で作られる複数のローブから進入コースに適した二つを選び、その2つの ローブのヌル点方向を航空機の「上下」方向の進入コースとして与える。

…と問題にありました。「太字」が問いになった個所です。


 しかしながら数度の角度や100Hz前後の信号で航空機を誘導するというのはいまだに驚異に思います。DEMみたいな電波の往復時間を利用して距離の測定をするのは何となく(あ、ホント何となく)理解できるのですが…千歳に居た頃は出張や帰省で幾度か航空機を利用しましたが、幸いにも悪天候のため折り返しや目的地変更といったことには遭いませんでした。それでなくとも千歳は霧とか粉雪で視界不良に陥ることがあったのでパイロットさんの腕もさることながら、この様な航行援助施設にも興味がわくのと同時に感謝する次第です。

撮影 2000.09頃、フィルムスキャンです。

本稿は次の書籍を参考にしました。
・航空電子入門(社団法人日本航空技術協会;1994.11.10 第1版第4刷)
・アンテナ工学ハンドブック(電子情報通信学会;1992.12.30 第1版第7刷)


全景_設備のみ 過日道央方面に行った際、帰路便が早朝便であり、またレンタカー返却後の送迎が空港までであったため空港ターミナルビル内のホテルに投宿しました。すべての部屋から滑走路が見えるとの謳い文句の通り、東側に広がる滑走路が良く見えました。夜間は滑走路・誘導路の灯火類がきれいに見えてました。また朝は東から真っ直ぐに差し込む朝日で凍結した滑走路が光ってました。

 左図は上にあるILS装置の飛行機なし版です。紅白に塗り分けられた函に「ILS」とペイントされているのがかろうじて見えました。函の影に除雪車の様なキャタピラ車が隠れてます。鉄塔に3つ設置されているコーナレフレクタアンテナにはレドームがついてます。また上図では見難かったのですが上と真ん中のコーナレフレクタアンテナの間に垂直アンテナが設置されてるのが観察されました。

撮影 2005.01.10 07:45頃

初版 2002.11.18
追記 2005.01.18

ひとつもどります