about old hanger

●ハンガーと電話番号 -3-

電話は1876年グラハム・ベルによって発明されました。そして、アメリカを中心に、それほど長い時間をかけることなく普及をしてゆきました。普及の鍵となったのは、電話機自体ではなく、多くの電話の中から特定の電話機どうしを結ぶ、交換機のシステムにあったようです。私たちが使っている電話番号は、特定の電話につなぐため、交換機に送るコードといってもいいでしょう。今は、番号を入れれば自動的に特定の電話につないでくれますが、大昔は、人が仲介して接続していました。

電話が使われだしたごく初期には、電話番号などなく、仲介する電話交換手に相手の名前を告げて接続してもらっていました。
つまり、電話機に向かって、
「××××さんにつないで」
と告げれば、交換手が××さんの電話を呼び出して接続してくれたわけです。そのころは、電話に加入している人も少なく、かける相手も町の中だけで市外通話などもなかったので、それで十分ことたりたようです。

しかし、電話の台数が増えると、名前だけでは対処できなくなります。そこで「番号」が登場します。
電話の加入者は、加速度的に増えたようです。そして、ある町と別の町の交換局をつなぐ、いわゆる市外通話のようなものができてくると、名前だけでは不都合になってきます。そこで、番号が登場します。
「120番の××××さんにつないで」
と交換手に告げます。番号がついてしまえば実は名前などどうでもいいのですが、「電話番号」という概念が定着するにはそれなりの時間が必要だったようです。
また、市外通話のような場合、番号だけでなく町の名前が加えられたりしたようです。
「○○○○の120番に」
と告げます。さらに電話の台数が増えると、番号だけでは対処できず、地域名が加わります。

こうやって電話番号は少しずつ複雑になってゆきます。20世紀もまだ始まりの頃のことです。

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では、ハンガーに記されている電話番号を見てみましょう。
以上のような経緯から、番号しか記されていないものは、比較的古い可能性があります。

■3桁のもの……

「762-J」という3桁のあとにアルファベットのついた番号があります。これは、「パーティーライン」といって、ひとつの回線に複数の電話機が取り付けられている場合です。回線番号のあとに、762-A, 762-B,……のようにアルファベットをつけて区別をします。写真の番号は「J」ですから、この回線には、少なくとも10台の電話機が取り付けられていたことが想像されます。
ひとつの回線ですから、そのうちのどれかがビジーだと、たの電話は当然使えません。現在の家庭用固定電話の親機と子機のような関係でしょうか。

■4桁のもの……

桁数が多いからといって、3桁のものより新しいとはかぎりません。1900年前後のアメリカの電話帳には、2桁から4桁の番号まで混在しています。

■地域名が入ったもの……

これは、イギリスのものですが、電話番号の前に、わざわざ町の名前が入っています。市外通話が普通になった頃のものでしょう。番号だけのものより、すこしだけ新しいかも知れません。

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1920年代、人を仲介しない「自動交換機」が広まり、ダイヤル式の電話が普及してゆきます。そして、電話番号にも変化が生まれます。

〜続く〜

〈参考文献〉『電話帳の社会史』 田村紀雄著 NTT出版