手術に伴う合併症

Key Words:人工関節,合併症,血栓症

深部静脈血栓症と肺塞栓症

手術や外傷に伴う合併症として,最近注目されているものに,「深部静脈血栓症」,「肺塞栓症」というのがあります。ここ数年の新聞記事にも,いろんなところで目にする機会が増えてきた合併症です。

手術・外傷ばかりでなく,IVH(中心静脈栄養),長期臥床によっても発生し,時には致命的(つまり死んじゃうということ)となる合併症です。

そんなに重症な合併症なのに,なんで今まで騒がれていないの?と疑問を持つ方も多いことでしょう。

整形外科医にとって,「手術をしたら死ぬかも 知れない」という説明は,もともと命をかけるべき手術ではないので,どうしても言いにくかったのではないか?と思われます。(反論はあると思いますが,あくまでもこれは僕の想像です!)

また,その発症の頻度は,欧米諸国に比べて低いと報告されており,生活の欧米化に伴って,近年増加傾向にあるとされているため,とっても稀な合併症として扱われていたとも考えられます。(本当かな?見逃されていたんではないか?と思う人もいるでしょうねえ…やっぱり…)

実際の報告をみると,人工股関節の術後の深部血栓症の頻度は,欧米では20〜80%と報告されているようです。

また,症状を出さなかったり,軽いためはっきりしないことも多いようで,実際の症状を出す頻度は,数%ではないか?と想像されています。(詳しいデータをご存じの方はご連絡下さい。)

しかし手術を受ける人にとっては,たとえ数%の合併症であっても起こっては困ると思いますよね。勿論,手術をする方にとってもとっても困る問題です。

欧米では,予防的に血栓を溶かしたり,固まりにくくする薬の投与が認められています。しかし日本では,もともと認識が甘かったのか,予防に対する診療は認めていなかったからか,これらの予防治療等に関しては保険適応がありません。最近になって,整形外科医ばかりでなく,麻酔科やそれこそ血栓症に詳しい医師達から,予防方法や発生に関する注意を喚起する報告が増えてきています。

果たして,あなたは手術を希望しますか?それとも諦めますか?

でも深部静脈血栓症は,どのような手術や外傷においても,起こりうる合併症です。その頻度が場合によって異なっているに過ぎないと僕は思っています。つまりどんな場合でも起こりうると思います。

だから,手術が治療の選択肢にならないということではありません。だって手術をしてよくなる確率の方が,合併症の確率よりも上わまっていると思うからです。

ちなみに僕のいる大学,人工股関節を行った患者さんの数はとても多いのですが,深部静脈血栓症・肺塞栓症を起こした患者さん(つまり症状があって,診断がついた人)は殆どいません。(ここでは詳しく書くわけにはいかないのですが,ある先生のお話しでは,1000人以上の同じ手術を行って,5人未満だそうです。)

結局は「手術が怖い 」と思っている人に,油を注ぐことになったかも知れないけれど,怖いと思って痛いのを我慢しているよりも,本当に怖いものなのかを知ってから判断してもらいたいと思います。「でもやっぱり怖いよう 」と言われる気がするなあ。