5分間診療に対する功罪は,何分間診療なら改善されるのだろうか?

悪名高い「5分間診療」だが,では「何分間診療」なら問題ないのだろうか?

「時間ではない!患者側の満足度の問題だ!」と偉い評論家達はおっしゃるのだろう。

けれども,外来診療において,一人の患者にどれだけの時間を用意すればよいのか?という答えは,医療サイドと患者サイドで異なっているのではないだろうか?


「新しい世紀に向けての診療」と題して,医学部教育の中でも,問診の取り方を実習させる大学が,旭川医大を含めて増えているようである。その中で行われている内容は,果たして現実的なものとなり得るのだろうか?という疑問が僕にはある。

国家試験においても,オープンクエスチョンなる形式がれっきとした問題となって出題されている。「医師側が必要な情報を,誘導尋問的に聞いてはいけない」のだそうだ。患者に自由にしゃべらせて,病気の情報をさぐるということらしい。患者サイドに医学的知識があれば問題ないかも知れないが,自分がどんな病気かわからんから受診しているのに,患者からの言葉のみで判断するには,かなりの時間を要することではないか?と思う。勿論,5分間診療の問題点は,「ろくに話も聞かない」ということだと思うので,オープンクエスチョンとは無関係だと言われればそれまでだが…。

試しにと思って,時々時間があるときに自由に患者さんにしゃべってもらうことがあるが,一体何を困っているのかを聞き直すしかないくらいに,生活上のことを自己診断付で話し続ける方が多いのに驚く。時によっては夫婦間のトラブルの話までし出す。(でも,この情報は結構患者背景を考える上で役立つ情報なのだが…。)結局,主訴を確認しなおし,自己診断の評価を医師の立場から助言して,さて診察をしますと言ったら,「こんなに話を聞いておいて,お前は何の病気かわからないのか!」と少し怒った様子になった方がいる。全部が全部そうとは限らないが,患者サイドにも,診療の手順を理解してもらいたいなと思うのである。挙句の果てには,「お前みたな孫くらいの年の医者に診てもらいたくはない!」と憤慨されてしまった御高齢の患者さんもいた。(でもこのおじいさんとってもいい人に思えた。さすが戦争行って敵の砲弾をかいくぐって生き延びただけのことはある。思わず,お願い許して!と言ってしまった!)このホームページのどこかに書いてあるように,問題はコミニュケーションをどうとるか?であり,時間ではないと痛感している。


僕だけの考えかも知れないが,多分どの医師も時間が許せば,もっと患者からの話を聞きたいと思っているのではないだろうか?米国なんかの外来診療の話を聞くと,一日に外来診療をする患者数は,数人程度だと聞いている。短時間で診断を下し,沢山の患者をさばく日本の医者の方が勝っているのかも知れないと思うのだが,これは明らかに医療サイドの勘違いであることは否めない。

経営する側の立場から言えば,現在の医療は,医療収益を限りなく上げて,患者に人気のある医師をやとって,病院が儲かる医療体制が求められている。(病院がつぶれる時代なのだ!余談だが,ある病院では,時間あたりの診療患者数が少ないと,クビになるという話を聞いた。)一方では,診療保険料の削減も大事と言われているが,言っていることとやってることに一貫性がないと思われても仕方がないと思いませんか?さらに医師の技量を評価して,医療自体を見直すことも言われているようだが,現在の医療法では,医師の技量を宣伝すること自体禁じているのだから,このような評価は,病院側主導でやるよりも,国が何らかの基準や方法を立てるべきじゃあないだろうか?。


話がかなりズレたので,少しもとにもどして…,5分間診療を非難し,きれいごとを並べ立てている,とっても偉い先生方は,何分間診療をしているのだろうか?日本の医療では,米国のように患者を選ぶことはできないのだから,受診希望患者は全て診るしかない。(飲み屋さんじゃあるまいし,今日は満席なんです〜うっ。ごめんなさいね〜え。また来て下さいね〜え。なんて言えるわけないじゃない!)人気が出れば,外来患者数は増えるし,診療時間は無制限ではないから,一人あたりの診療時間は短くなる一方であろう。当然誤診の確立も上がることになるし,患者の満足度は,いい医者という噂そのもの以外なくなってしまうということもあり得る。

さらに話を診療時間に戻そう。「一体何分の診療ならいいのか?」である。答えは多分ない。時々見かけるが,1時間以上も話しつづける患者さんがいる。対応する医師も困り果ててしまっているが,話を聞いてくれる先生だからと思っているのか,何度も受診してくる。決して患者さんを責めているのではない。これでは,患者も医師も診療の目的を失ってしまうんじゃあないかな?と思っただけである。ふと我にかえって,「あれ?何を診て欲しかったんだっけ?」とお互い顔を見合わせることにでもなったら,他人事には笑ってしまうが,決して笑いごとではない。

また,患者さんの中には,自分が何時間も待たされているのにもかかわらず,自分の他にも待っている人がいることを気遣ってくれる,こちらとしても尊敬してしまう患者さんも沢山いることも事実なのである。


そこで提案である。最初に「あなたの診療時間は何分です。」と言ってしまったらどうなのだろうと思っている。最近予約制が流行だしね。制限時間何分で話を聞いて,あと残り何分で診察して,医師が考える時間が何分で(実際は同時進行で考えているので,いらないかも?),治療や説明は何分,合計何分。なんてやりだしたら,患者さんも時間をめいいっぱい使ってこうしようとか思うのだろうか?

そうなったら,診療時間単位で診察料も変動させたらいい。そうしたら,時は金成りとなって,少しはお互いに充実した診療時間を過ごせるかも?

でも,自分が患者だったらどう思うだろうか?と考えてみたが,あまりいい気はしないと思った。

結局は,現在の医療システム自体の欠陥を修正しない限り,何も解決できないと僕は思う。

最後に,理想的な病院に対する単純な計算をしてみよう。

一人外来診療に20分かけると仮定する。(5分間の倍でもダメ,3倍でも足りないと思って,4倍)我々は整形外科医だから,手術の時間や検査の時間,入院患者の回診などの時間が必要なので,毎日一日外来をするのは難しい。それで,午前中の外来(9時から13時までの4時間)を週3回行うとすると,初めての患者云々を無視すると,一日に診療可能な患者はなんと12人だけ。週には36人。2週間毎の受診とすると,月に72人しか診ることができないのである。

しかも全て予約制にしたとしたら,初めての患者は,誰かが受診を終了するまで予約できないことになる。

こうゆう病院はみなさんどうですか?

実は,こういう病院をあなたが受診することはできないのです。

だってこういう病院は,一部を除いて潰れてしまうんですから!何故って?月に72人の患者から病院が得る利益は,現行ではおそらく,看護婦さんの給料を払うことができないだろうから…。